1. 設備は絶対に壊れない
クライアントのいろいろな工場を見るにつけ、機械故障に関する認識が極めて低く、甘いことを強く感じさせられる。それらの工場は全て、設備課の役割とは「機械が故障を起こしてからそれを修理する」ということであると思っている。
それでは、たとえばもし航空会社がそんな認識なら、飛び立った飛行機が飛行中に機械故障を起こして墜落してしまうことになる。海運会社なら、遠洋航海の船舶が航海中に機械故障を起こして漂流してしまうことになる。海軍なら、軍艦が戦闘中に機械故障を起こして停船してしまう。もしそうなれば敵艦の餌食になって即撃沈させられてしまうだろう。
また無駄な在庫が全くないトヨタ自動車の生産工場で機械の長時間停止(ドカ停)を起こせば、長大な生産ラインの作業に従事している何百人、何千人という作業者を遊ばしてしまうことになる。もしこれが部品メーカーでトヨタから損害賠償でも請求されたら即倒産ということになってしまう。
これらの事実を考えてみると、「機械は絶対に壊れない、壊してはならない」という信念を持って設備管理を実践している業種や企業がこの世の中にはいっぱい存在していることが分かる。私は、飛行機・船舶・軍艦の設備管理については知らないが、トヨタ生産工場のそれについては熟知しているのでここで紹介したい。
2.設備は正直
人間は長年喫煙して肺がニコチンで真っ黒になっても、耐えて長生きしている方もみえる。だから人間は汚れには結構強いのではないだろうか。しかし機械設備は汚れに対して極めて正直で、汚い状態のままにしておくと必ず壊れてしまう。
中国のクライアントの工場で、日本製の機械の修理に派遣された技術者に話を聞いたことがある。彼は、「よく中国やインドネシアから修理に呼ばれるのですが、行ってみるとどの機械もすごく汚い状態になっています。点検や交換部品などもこちらの指示通りやってくれていません。こんな状態なら必ず壊れます」と言っていた。
しかし汚れに弱い機械でもメリットはある。それは悪くなった部品はすぐに新品に交換できることだ。だから常に清掃して、部品が壊れる前に交換してしまえばよいわけだ。ところが人間の方は、汚れには少々強くても、機能が著しく低下してしまった肺を新品に交換することはほとんど不可能だ。我々は機械のデメリットを克服して、メリットを十分活用すればよいわけだ。
3.トヨタの設備管理の考え方
これはある中国企業がドイツから購入した設備の取扱説明書の中にある点検項目の一覧表だ。このようにいろいろな項目があり、それを実施すべき間隔は下記の通りそれぞれまちまちだ。
1日
7日(1週間)
30日(1ヶ月)
180日(6ヶ月)
360日(1年)
720日(2年)
これだけまちまちだとしっかりした管理表がなければ確実に実施できない。このような場合、現代ではすぐにコンピュータ管理へ進みがちだ。しかしコンピュータ管理にした段階で考える頭脳は現場から事務所へ移ってしまう。こうなるとそのコンピュータを扱う事務担当者一人の世界に入ってしまい、彼の上司すら具体的な内容を把握・管理できなくなってしまう。それに後述する交換部品の間隔は数年に渡る。その間に事務担当者は異動してしまい結局誰も分からない状態に陥ってしまうのが普通なのだ。
設備の調子(コンディション)は、それを毎日使っている現場作業者が肌で感じて一番分かっている。その現場作業者が毎日清掃し、必要項目を点検することは必須条件であると言える。また工場全体では膨大な機械となってしまうが、作業者ごとにしてみたら数台の管理となるためハンド作業の管理表で十分管理可能であり、現場監督者もしっかり管理できるのだ。これが真の目で見る管理なのである。
4. 交換部品
切れ味が悪くなった刃具で無理して削ると、機械のベアリングの磨耗を早めことになる。従ってトヨタは刃具でワークを200個削ったら、その刃具を交換するとか、300個削ったら交換するというようにあらかじめ決めておき、機械に刃具の種類に相当するカウンターを付けておく。そしてその数に達したら、機械は新たに削るのを中止しあんどんが点灯して、この事実を作業者に知らせる。そのあんどんを見た作業者が直ちに来て刃具を新品に交換する。そして使い終わった刃具を所定の位置に置いておけば、再研磨係が回収に来て再研磨してくれる。
設備の構成部品は1つ1つ互いに独立ではあり得ない。つまりある部品が劣化してくれば、その害は他の部品にも影響を及ぼす。これは切れ味の鈍った刃具が機械に悪影響を及ぼすことと非常によく似ている。従って設備の構成部品も刃具交換と同じように十分機能を果たしているうちに交換していくべきである。この場合、経済性を全く無視してやたらと新品に交換するのではなく、過去の故障をもとに劣化状況をよく観察し、部品の寿命を見極めて交換頻度を決めていくことはいうまでもない。またどうしたらもっと部品が長持ちするかといった寿命延長の努力も必要である。そして設備を構成している全部品について、このような配慮がなされるにこしたことはないが、設備台数と部品点数の膨大さを考えると実際問題としては不可能に近い。しかし設備の重大損傷を招く恐れのある部品を重点にして、一点でも多くの部品を自信を持って定期交換し得る状態に持っていくことは、部品そのものの劣化を防ぐ工夫を進めるのと同じように重要なことである。
設備部品の寿命も原則的には刃具と同じように、何サイクル設備が動いたかで決めていくべきである。しかしながら1台の設備の対象部品数は刃具の比ではなく、個々にカウンターを付けることは不可能に近い。また設備部品の寿命は刃具寿命に比べて比較にならぬほど長い。このような点を考えると、設備部品の寿命のとらえ方はサイクル数で考える場合もあるが、1年、2年とか5年、8年といった決め方も当然あってよいといえる。ここで問題となるのは、寿命がサイクル数で決めてあろうが年月で決めてあろうが、いずれにしても膨大な部品を対象とし、しかも固有の交換時期が定めてある中で、いかに忘れずに確実に実施させていくかということである。
5.忘れずに確実に実施させる方法
いろいろな間隔の実施項目を1ヶ月以内の項目、1年以内の項目、1年以上の項目の3つに分類し、次の3つの管理表を作成する。
- 設備月間「清掃」「点検」管理表
- 設備年間「点検」「定期清掃」管理表
- 設備長期「交換部品」「定期点検」管理表
- 設備月間「清掃」「点検」管理表
例えば自動車で砂漠や密林の一本道へ長時間ドライバー一人で入って行くような場合、始業点検を徹底的に行うはずだが、工場でもその臨場感を持って、毎日の点検項目は始業前に必ず作業者が実施しなければならない。また点検でせっかくその部位を見るのだから、ついでに周辺を簡単でよいから清掃すべきだ。そうすれば機械は常に清潔な状態が保て故障せずに滞りなく動いてくれる。それに毎日少しずつでも清掃していけば、毎日の工数はそれほどかからなくてすむが、これを怠り清掃しないでおくと、その期間に比例して次の清掃に工数がかかってしまうことになる。
そして管理監督者には、ランダムに抜き打ちで作業者が実際に日々の点検をしているかチェックしなければならないのだが、該当機械が膨大となるため、具体的な検査のやり方が写真入りで分かりやすく解説してなければそれができないことになる。したがってこの管理表の下部にあるような具体的解説が必要になる。またこのような見える化が徹底した管理表を作っておけば、作業者が交代して初心者がきたような場合にも簡単に業務引継ぎができる。
また点検に清掃が付加されているため、管理監督者が現場巡廻する場合、「機械が汚い=日々の点検を怠っている」と目星を付けることができる。
次に1週間や1ヶ月間隔の項目については、必ず日にちが重ならないように計画する(平準化)。なぜならなるべく日々の業務負荷を平均化するためである。
ここでも3ヶ月、6ヶ月、1年の間隔単位で実施月(日)が重ならないように平準化をかける。これらは設備課でなく、なるべく現場作業者が実施できるように教育・訓練・手順見える化が必要である。
定期清掃については必ず1年に1回は実施するようにする。これも日々の清掃をしっかりやっておけば、必要がなくなるとまでいかないまでも、非常に工数が少なくてすむようにできるはずだ。家庭でも日々の清掃をしっかりやっておけば年末の大掃除など要らないのだ。
交換部品や定期点検(オーバーホール)はその間隔が1年を越えるものがほとんどだ。このような場合、部品ごとにいつ交換したのか記録していないと、次の交換ができなくなってしまう。従って長期の年数に渡る管理表が必要になる。またそれらの工事の際に、他のいろいろな部品も必ず必要になるのでその部品群もリストアップしておく。そうすれば交換部品やその関連部品を、当該工事の実施日に丁度間に合うように発注・納入が行われるように手配することが可能になる。
このようなしくみがない工場では、機械が壊れたら修理する。そのためすべての設備部品を設備予備品として在庫しておかなければならない。
しかしそのような在庫は極めて長期間保管するため、ほとんど錆びてしまっている。こんなものが使えるのだろうか。
トヨタの設備管理のようなしくみを作ってきちっと運営しても、機械故障が発生したとしよう。その場合、「日々の点検項目に漏れはなかったか?」
「定期点検を2年から1年半に短縮したらどうか?」
「この交換部品の交換間隔を半分にしたらどうか?」
というような、いろいろな対策を考え出すことができる。しかし「機械は壊れるまで使う」という工場では、再発防止の対策は一切打てない。このような工場の設備課はたまったものではない。これは何の健康上の注意を払わずに病気になった患者の手術を毎日毎日させられる医者と同じだ。そのような医者は、日々の健康管理・定期的な健康診断をしっかりやってもらい、手術の必要な患者を極力出さない方向へ努力するはずだ。