トヨタの生産方式に関して

「能率管理」 第18回

青木幹晴

1.労働強化の排除方法

 ロット生産はすべての機械が定員制になっているため、増産になっても、減産になっても要員は一定である。したがって増産になれば忙しくなり、減産になれば暇になる。このような生産体制だと増産の場合、往々にして労働強化が行われるようになるし、逆に減産になれば売上高が減少するのに労務費は減少せず会社が潰れてしまうことになる。
 この会社側の労働強化への防衛策として、労働者が団結して守ろうとするようになる。したがって、労使関係が良好でない会社は、総じて生産体制が稚拙な段階の場合が多く、それは経営者の怠慢とも言える。
 トヨタは第2次大戦後すぐにトヨタ生産方式の導入に着手したのだが、まず最初にやったことは、ロット生産から1個流しライン化への変革だ。この効果は絶大で工程内の仕掛品が激減するとともに、生産リードタイムが最短となった。
 またこの1個流しライン化により、サイクリックな作業が可能となり、作業の標準化ができるようになる。そしてここに至って初めて、増産になれば要員を増やし、逆に減産になれば要員を減らすことが可能になる。この要員増減の的確な実施により、作業者への労働強化を防止することができるようになる。
 したがってトヨタ生産方式を構築するためのポイントは何かと問われれば、「生産の増減とパラレルな関係で要員を増減できるラインづくりをせよ」という回答になるであろう。

それではここで図2をご覧いただきたい。

 これは6工程の1個流しの組立ラインで、1工程の標準作業時間が30秒と仮定した場合の、要員増減の方法を示している。
 それでは具体的に見てみることにしよう。この表の一番にあるように、直8時間で960個生産する場合は、6工程に6人投入する。1人の作業者は1工程を30秒で作業して、ワークを次の作業者に渡す。こうすれば30秒に1個完成する。1時間では120個でき、さらに8時間では960個できる。
 もしこの組立ラインの負荷が半減し、直8時間で480個生産するとなったらどうすればよいだろうか。その場合、要員数も半減させ、一人作業者が2つの工程を連続して60秒で作業して、ワークを次ぎの作業者に渡すようにする。こうすれば1時間で60個でき、さらに8時間で480個できる。
 この場合の問題点は、一人の作業者が2つの工程の作業内容を習得しなければならなくなることだ。いわゆる「多能工化」が必要になるわけだ。
 一作業者もいずれはキャリアを積んで、監督者や管理者にステップアップしていかなければならない。そのためには多くの工程の作業内容を習得する必要がある。そのために「多能工化」は避けては通れない。作業者にはこのことをしっかり説明して意識付けしなければならない。
 以上の諸要件のポイントをまとめると次のようになる。

<生産量が2倍になった場合>

  • ラインスピードを2倍にすれば生産量が2倍になる。
  • 要員数も2倍にする。
  • 作業範囲は1/2になる。
  • 結局、作業者1人の作業負荷は同じとなる。

<生産量が4倍になった場合>

  • ラインスピードを4倍にすれば生産量が4倍になる。
  • 要員数も4倍にする。
  • 作業範囲は1/4になる。
  • 結局、作業者1人の作業負荷は同じとなる。

 これを見ると、生産量がどのように変化しようが、作業者に作業負荷(労働の質)を一定に保つ体制ができていなければ、労働強化は日常的に起こってしまうことがお分かりいただけると思う。

2. 省人化から少人化へ

次に図3をご覧いただきたい。

 これは鋳物ラインのイメージ図だ。鋳造工程などは、設備が邪魔をして、作業範囲が固定化される傾向にある。このような場合は、ブリッジなどを作って、作業者が自由にどこへでも動けるようにする。そうすれば、生産の増減に対してパラレルに要員の増減ができる。
 ところで作業範囲が固定化されている段階で、それぞれの作業域で改善が為された場合のことを考えてみよう。その場合作業者それぞれの工数が減るが(この工数が減ることを「省人化」という)、その分作業者が遊んでしまうだけになる。これではせっかく改善しても何の意味もないことになる。
 そこで作業者がどこへも行けるようにする。こうすれば工数削減され1人工でなくなった作業を集めてきて1人工にし、余った人をラインから抜くことが可能になる(この場合、実際に「人」が「少」なくなるので、「少人化」とよんでいる)。
 このように「生産の増減とパラレルな関係で要員を増減できるラインづくりをせよ」という方針は、TPSの最終目標とも言える「少人化」まで結び付くのである。

それでは次に図4をご覧いただきたい。

これは飲料メーカーが缶へドリンクを封入する工程の写真だ。この写真の工程の問題点は次の通りである。

<問題点>

  • ① 缶を載せたラインがどこをどのように通っているかさっぱり分からない。
  • ② 工程のどこで不具合が発生するか分からないので、要員を多く配置し監視しなければならない。

<対策>

  • ① 製品の流れの順番に工程番号を付与し、現場へそれを掲示する。
  • ② 各工程での不具合の発生を機械自らが感知できるようにすると同時に、その際は機械が即時に自動停止するようにする。さらにあんどんが点灯して作業者が認識できるようにする。
  • ③ 作業者があんどんが点灯した工程へすぐに駆けつけることができるようにブリッジ等を設置する。

次に図5をご覧いただきたい。

 ここには小物1個流しラインでの事例がある。左のように1人作業のセルが3つあり、それぞれが独立して設置してあるような場合を「離れ小島」という。この場合に、作業者の負荷に余裕が発生すれば、作業者は遊んでしまうことになる。
 これを防止するに、それぞれのセルを合体してしまう。こうすれば端数工数をまとめることができ、少人化が可能になる。さらにこれにより、生産数が減少した場合は要員を減少させることが可能になる(図6参照)。

次にこのような合体セルをさらに集合させてくれば、よりきめ細かな要員の増減が可能になる(図7参照)。

3. 製品時間(基準時間)の必要性

 このようにして会社が指示した「生産の増減とパラレルな関係で要員を増減できるラインづくり」ができ、実際に生産の増減が発生したとする。この場合いったい自分の係の生産数が増えたのか、それとも減ったのか的確に把握することは非常に難しい。
 なぜなら普通、工場とは多種類の製品を作っており、そのそれぞれの製品が、ある物は増産になり、ある物は減産になるというようにバラバラの負荷になるからだ。その場合、トータルとしては増産なのか、それとも減産なのか現場で把握することは非常に難しい。さらにそのような状態において「端数工数を集約せよ」などという少人化の指示は、細か過ぎて実施不可能とさえ言える。
 そこでトヨタは、それぞれの製品1個当りの製造に必要となるであろう工数を過去の実績などから算出した(これを「製品時間」という)。なぜなら製品1個当たりの工数が分かれば、それに生産数を掛け算してやればトータルの予定工数が把握できるからだ。トータルの予定工数が把握できれば、製造に必要となる要員数の算出が可能になる。
 現場に対して「生産の増減とパラレルな関係で要員を増減できるラインづくりをせよ」と命令する以上、トータルの予定工数が把握できるしくみを構築しなければ意味がないのだ。
 能率とは「予定工数(生産合格数×個当り予定工数)」に対する「実績工数」の比率のことである。トヨタは全ての組単位で、そこの全ての部品に対して1000個つくるのにどれだけの工数を投入すればよいかを決めている(1個では数字が小さくなり過ぎるため)。
 従ってすべての部品の合格数が出れば、すぐに会社として認めた予定工数が算出されるので、それと実際工数を比較する。
  • 予定工数>実際工数・・・・・・能率が上がった
  • 予定工数<実際工数・・・・・・能率が下がった

製造課単位でこれを競わせて、賃金にも反映させている。世界の企業でここまでやっているのはトヨタだけであり、これがトヨタの真の優位点である。

そこで図8をご覧いただきたい。

 ここでは、製品1個当りの製造に必要な工数(製品時間)を使ってどのような管理をしているかご説明したい。
 A製品、B製品、C製品の3つを製造している係において、それぞれの必要工数が、A製品1分、B製品2分、C製品3分だったとする。そして日当り生産必要数が、A製品700個、B製品400個、C製品300個だったとする。この場合の日当りのトータル工数は40時間となる。日当りの稼働時間は1人なので、5人投入すればよいことになる。トヨタ生産方式の場合、すべての製品について1ヶ月間は日当り生産数量を同一にするため、向こう1ヶ月間は5人の投入でよいことになる。

しかし次月には日当り必要数が

  • A製品700個⇒800個(14%増)
  • B製品400個⇒700個(75%増)
  • C製品300個⇒500個(66%増)

というようにそれぞれまちまちの増産となった。

 このような例を見ると、やはり1個当りの必要工数を把握していないことには、トータルの必要工数が算出できないことが実感できると思う。そしてこの場合の日当りトータル必要工数は61.6時間となった。さらに必要人員となると7.7人という計算結果になる。こうなると8人投入するしかなくなる。しかしそうなると0.3人工遊んでしまうことになる。その対策として、近接するセルの仕事を0.3人工もらってくる。

今度は、次月の日当り必要数が減少した場合を考えてみたい。

  • A製品700個⇒300個(43%減)
  • B製品400個⇒200個(50%減)
  • C製品300個⇒200個(67%減)

この場合もそれぞれの1個当たりの原単位を掛けて日当たりトータル必要工数を算出すると21.6時間となる。さらに必要人員なると2.7人となる。そこで3人投入して0.3人工は近接セルの仕事をさせるようにする。

4.製品時間の設定方法

図9をご覧いただきたい。

 直接自動車を作る時間である「赤」の時間で、製品時間を設定する。「青」の時間は、もちろん業務なのだが、会社としてはなるべくここを小さくしていってもらいたい。この「青」の時間を低減した場合も評価できるようにする。

<工数の把握方法>

  • トータル工数はすぐに出る
  • 「青」の時間はそれぞれ個別の時間をトータル工数からマイナスする。
  • 「赤」の時間の合計が出る(この「赤」の時間の個別時間は出ない)
 能率管理は「赤い部分のトータル工数 vs 赤い部分に相当する製品時間」という仕組みになっているため、赤い部分の個々の項目別の発生工数は必要としない。
 赤い部分が、実際に自動車を製造する時間なのだから、通常改善とはここの部分を削減していく。しかし青い部分も現場は遊んでいるわけではなく、立派な業務時間だ。とは言っても会社としては、自動車製造に直接関与しない工数はなるべく少なくしていって欲しいというのが本音だ。したがって全体工数に対する赤い部分の割合が大きくなれば、その現場の努力も評価できる仕組みも考案した。
 図10は新製品の製品時間の設定手順だ。ラインオフ1ヶ月前から開始され、製造部がその部品を製造するのにかかる工数を調査し、本社生産管理部へ申請する。本社生産管理部では、もし現状すでに他工場で類似部品を生産していたら、その製品時間を参考したり、実際に現場へ赴いて実測したりして査定する。製造部はもしその査定結果に不服があれば両者で協議に入る。製造部としては一度製品時間が決まってしまえば、それで労務費が管理されてしまうので必死だ。そして最終的には役員決裁を受けて決定される。
 このような工程や設備率もすべて考慮して、全社横並びで工数管理することは非常に重要である。もしこれがないといろいろな部署で改善が進められた結果、部署によってはとんでもない要員配置の状態に陥り、作業者が悲鳴を上げてしまうようなことになってしまう場合も考えられる。
 新部品立ち上がりの際は、上記のように徹底的に工数をかけて査定するが、生産が始まってしまえば、まったく工数がかからない仕組みにしている。それはトヨタのすべての製造課単位に能率を競わせてAランク、Bランク、Cランクと区分する。そしてAランクへ一定期間留まるとある一定量の基準工数(製品時間)の削減指示がくる。その目的は「基準工数vs実績工数」で、実績工数があまりにも基準工数より小さくなってしまったので、基準工数を減少させて両者がつりあうようにするということだ。このルールにより基準工数は自動的に修正されるのだ。
 さらに、この能率指標は賃金にまで反映されている。その金額は微微たるものだが、現場にとってはプライドがかかってくるのだ。

5.能率管理の具体的手法

図11をご覧いただきたい。

 これはトヨタのある工場の能率管理のイメージ図だ。トヨタは1ヶ月間の日当り生産数を固定するので、この図にあるように1ヶ月ごとの推移グラフが描ける。
 上のグラフの赤の折れ線が毎月の製品時間の推移であり、下のグラフの赤の折れ線が実際に作業に従事した要員数の毎月の推移だ。この両方の折れ線を見比べてみると、ほとんど同じ変動をしていることが分かる。これはこのトヨタの工場が、生産の増減とパラレルに要員を増減できていることの証拠だ。
 さらに上の製品時間を下の実績人員数で割り算した結果が、一番上の緑の折れ線へプロットされている。この値が1以上なら改善が進んでいることを表し、1以下なら改善が進んでいないことを表す。ここの工場長は、この緑の折れ線の推移を見るだけで、工場全体の工数低減状況を把握することができる。
 詳細に見てみよう。94年8月には車種切り替えがありモデル末期の減産と新型車の立ち上がり不能率で生産数は非常に少なくなった。やはり一番上の緑の折れ線である生産能率も落ち込んでしまった。しかし10月、11月と立ち上がり不能率も解消されるとともに生産能率も向上してきた。
 次に下の図の青の折れ線を見て頂きたい。これはこの工場の在籍人員に推移を表している。工場の負荷が100%なら、この在籍人員で対応できる。しかし現実の生産必要数はものすごく変動する。それが減少した場合、在籍人員では多過ぎるので、他の繁忙工場へ応援に行ってもらう。応援期間は3ヶ月で、成績優秀者から順番に応援に出していく。この応援によって他工場の現場の実態を知り、横展できる改善を探してくるのだ。この作業者の応受援制度は労務費の固定費から変動費への移行効果のみならず、現場活性化の効果も期待されているのだ。

次に、図12で具体的数字でご説明したい。

<赤い部分の工数低減を評価する>

  • 基準工数・・・・・・140時間
  • 実績工数・・・・・・120時間
  • 140時間÷120時間=1.17・・・・・17%効率が上がった

<青い部分の工数低減を評価する>

  • 前期・・・・「赤」÷「赤+青」=0.58
  • 今期・・・・「赤」÷「赤+青」=0.60
  • 0.60÷0.58=1.03・・・・・・・・・・・・3%効率が上がった

<トータルの向上率>

  • 基準工数・・・・・・140時間
  • 実績工数・・・・・・120時間
  • 140時間÷120時間=1.17・・・・・17%効率が上がった

現場に対してこのような評価を行なうと、現場は次のような行動に出る。

  • ① 生産技術部「試作品を現場の機械で10個作って下さい」、現場「なんで10個もいるのですか?7個ぐらいでいいと思います」、というようなやりとりになり無駄な試作がなくなる。
  • ② 設備を故障させたら、製品が出来ずに大変なことになる(能率も下がる)。したがって故障は絶対させないように作業者全員が日常清掃や日常点検をしっかりやるようになる。
  • ③ 部品メーカーにトラブルが発生してトヨタラインが止まったとすると、能率が低下するのですぐトヨタトップに知られる。その際、「私は悪くありません。部品メーカーが悪いのです」などという言い訳が効くわけがない。すぐにトヨタ現場は部品メーカーへ駆けつけて問題点を解決するような行動に出る。

6.能率管理の簡便法

 中国のクライアントである日系製造会社で、日本人社長のNさんとともにTPS改善に取り組んだ。
 当初、その会社はロット生産を行っていたので、徹底的に1個流しラインに改革してもらった。それにより生産リードタイムは最短化でき、作業がサイクリックになったことにより標準作業ができるようになった。さらにそのサイクリックな作業に標準時間を設定することにより、正確な生産計画が立案できるようになった。
 そのころのNさんの悩みは、現場が勝手に残業や休日出勤を申請してきて行っていることだった。中国では残業や休日出勤の賃金が通常より非常に高率なため、定時業務を手を抜いて行い、無理やり残業や休日出勤の追い込んでいるような印象があった。
 そんなNさんに、私からトヨタの能率管理のしくみの講義を行なった。するとNさんは「やはりトヨタのように、ここまで工数を分析して、実際に製品を造っていない時間を白日の下にして、その都度現場に突きつけて説明を求めるということをしなければだめだと強く感じた。しかしトヨタのような緻密な体制を作る余裕はない。そこでNさんは悩みに悩んで、次のような簡便法を思い付いた。
  • 実際に作業をした時間・・・・標準作業時間(CT)×合格数
  • 作業をしていない時間・・・・賃金支払い時間-標準作業時間(CT)×合格数

それでは、図13をご覧いただき、具体的にご説明したい。

3つの工程からできているラインがあった。各工程に1名ずつ配置してそれぞれが20秒作業して次の人に渡すようになっていた。この場合の製品1個当たりの必要工数は60秒になる。
 したがって1月1日の事例のように、合格数が1,100個だった場合は、
 必要工数60秒×合格数1,100個=66,000秒(18.33時間)

 この1月1日には3人に賃金として支払った時間が24時間だった。
 18.33時間-24時間=▲5.7時間

 この▲5.7時間はいったい何をしていたのか現場に確認をする。そうするといろいろな問題点が顕在化してくるはずだ。そうしたらそれを一つ一つ問題解決していくのだ。
 さらにこれを1月~6月の半年間続けて、その平均値を算出する。そして次の7月~12月の半年間はその平均値を基準として、それよりも低減することを目標とする。

次に1月~6月の予算を適用する7月の事例を説明したい。図14をご覧いただきたい。

 7月1日は980個造っている。これは基準時間にすると16.33時間だ。そして3人に支払った工数が27時間。
 16.33時間-27時間=▲10.7時間

 ▲8.6時間(1月~6月平均値)-▲10.7時間(7月1日)=▲2.1時間

 現場に対する質問・・・「なぜ前半年間の平均値より、今日は▲2.1時間もマイナスしゃのか?」

 さらにこの事例では7月1ヶ月の合計で▲21.4時間も悪化している。月次の会議ではこの理由を現場に質問するのだ。現場も前半年間の状況と今月の比較なので、まだ生々しく覚えているはずなので、容易に回答できるはずだ。