トヨタの生産方式に関して

「5S」 第14回

青木幹晴

 1. 5Sの定義

① 1S整理・2S整頓について
 最初に1S整理から取り掛かるわけだが、これが「要らない物を捨てろ」と言っている。このように単純明快且つ具体的に言ってもらえれば、現場もすぐに取り掛かかることができる。
 しかしトヨタ生産方式に位置づけるとすると、このようなことは一般常識に入ることで、トヨタ生産方式の一部とは言い難く、いわゆる「当たり前」のことである。したがって図2にあるようにトヨタ生産方式の土台としてその範疇の外に置いた。
 次に2S整頓となるがここからトヨタ生産方式が関係してくる。2S整頓をより具体的に説明すると次のようになる。
  • ⅰ.要る物については、それがすぐに取り出せるように棚を設置し、そこへ品名、品番、納入メーカー名等が記入された表示を付ける。
  • ⅱ.また棚への入れ間違え、取り出し間違えが発生しないような工夫を施す<TPS改善活動>。
  • ⅲ.さらに納入メーカーへの発注が的確に行われ、欠品が生じないような工夫(かんばん等)を施す<TPS改善活動>。
② 3S清掃、4S清潔、5S躾について
これらはすべて一般常識と考えられるので、トヨタ生産方式の土台として範疇の外に置いた。

2. 赤札大作戦

 5Sの定義は誰もが納得できる素晴らしいものだ。しかしこれだけでは具体的にどのような手順で進めればよいのか分からない。それではそれを詳しく説明したい。
 1S整理を進めるにあたり「要らない物を捨てろ」と言われても、工場内にあるすべての仕掛品はいずれは必ず使用される物がほとんどで、「すべて要る物である」という答えが現場から返ってきそうだ。こうなったら1S整理は進められない。
 しかし生産リードタイム最短化は現代企業の必須課題であり、長期の工場内への滞留は許されることではない。したがってその長期の滞留を1S整理の対象にすることにした。ここが単なる掃除行為との相違点となる。
 そこで「要る物と要らない物を区別せよ」という問いかけを次の2つに区分することにした。
  • ⅰ.現場では、「一定期間(例えば向こう1ヶ月間)ここの位置を動かないかどうか」を判定してもらうだけにする。
  • ⅱ.次に一箇所に集めて、関係部署の責任者が集合して、捨てていいものか、それとも保管しておくかを決定する。
   こうすれば膨大な数の1S整理対象物品を効率的に処理することが可能になる。それでは次に、この処理手順を具体的にご説明したい。

「1S整理の処理手順(赤札大作戦)」
ⅰ.全社イベントとし関係部署では綿密な打ち合わせを行う(これにより各機能の責任者が一同に会することになり、捨てる場合の判定ができる)

会社幹部による綿密な打ち合わせ

現場リーダーへの説明

会社運動としての位置付け

会社トップからの決意表明

 ⅱ.赤札を作成する(各種必要項目が記入できるようにする)
赤札サンプル
 ⅲ.すべての現場に赤札添付者を派遣する

 ⅳ.赤札添付者は現場監督者と一緒に現場を回り、すべての品物について1点1点滞留期間を確認していく
 ⅴ.滞留期間が1ヶ月以上(会社の実力に応じて期間設定)の品物に関して赤札に必要事項を記入した上で、現物に添付していく

赤札への記入

赤札の現物への添付(テープにて)

赤札の現場への添付(紐にて)

赤札の現場への添付(設備にも)

 ⅵ.赤札を添付した状態の写真を撮る
 ⅶ.赤札品置場を設定し、そこへすべての赤札品を集める
(現場から撤去した際、撤去後の空き地になった状態も写真に撮っておく
赤札添付品の赤札品置場へ異動

赤札品置場への移動風景

 ⅷ.各部門の責任者が集合し、1点1点次のことを確認してゆく
  • 滞留させてしまった理由はなにか?
  • 捨てることができるか?
  • 捨てない場合は、どこへ保管しておくか?
赤札品置場での赤札品の処分方法の検討
 ⅸ.廃却品の赤札をすべて集めて、その金額を合計する(会社の損害額を公表する)

 ⅹ.優秀部署を表彰する
優秀部署の表彰

3. 2S整頓でトヨタ生産方式と関連

 赤札大作戦が終れば、工場内の品物はすべて近々に必要になるものばかりになる。こうなって初めて2S整頓を開始することができる。
 2S整頓は「必要な物をすぐに取り出せるようにすること」なので、まず部品棚と品名等の表示が必要になる。
 また置場番号が明確になればエクセル等によるデータ管理が可能になり、置場が瞬時に分かるようになる。
置場のデータ管理化
 しかしここで終っていたら世間一般の“片付け”と同じである。そこで工場においてはさらに次のようなことも2S整頓の範疇に入れる必要がある。

 ⅰ.運搬作業者が部品を違った棚に投入してしまわないような工夫をすること
棚番表示を品名や品番などの文字や数字だけでなく、写真や他の類似部品との相違点も明示し間違えないようにする。そして運搬者に投入側だけでなく、作業者の取り出し側の両方に掲示する。吊るすタイプにすれば、サイズが大きくなっても部品箱の投入しは支障が出ない。

 ⅱ.組立作業者が取り出すべき棚を間違えて、異なる部品を取り出してしまわないような工夫をすること
組立作業者の部品取り出しミス防止対策
ワークはお皿に載ってラインを流れてくる。そのお皿の端には、そのワークを表すかんばんが載せられている。1工程、2工程、3工程の先頭にはそれぞれかんばん読み取り機が設置してあるので、お皿がそこを通過する際に、かんばんを読み取る。
するとそのワークに組付けるべき部品の棚の前についているランプが点灯する。作業者はそのランプの部品を取り出して組付ける。
またランプが点灯するのと同時に部品棚の入口に設置して ある光電管も光線を放つ。この光線が一定秒数以内に遮られない場合は、ブザーが鳴るとともにラインがストップする。これは作業者が組付け忘れをしたか、誤 品を組付けたと判断されるためである。このような人のミスを自動的に見つけ出す仕組みを「ポカヨケ」という。

 ⅱ.適切な発注体制を構築し、工数をかけずに常に棚に部品がある状態を維持すること
この資材は1日1個消費される。発注してから納品されるまでは5日である。そこで1日の余裕をみて6個を基準在庫とする。そして終りから7個目に信号かんばんを添付する(下記のように仕切り板方式にしてもよい)。
この資材は順番に使用されていって7個目が使用された際に、信号かんばんが振り出されて発注処理が行われる。そして5日目に納入された際には、置場の在庫は1個になっている。
納入待ちの信号かんばん棚
 発注処理が終わって、予定日 のボックスへ入れられて、品物が納入されるのを待っている信号かんばんである。ある一日が終わって、まだそのボックスに残っている信号かんばんがあった ら、それは納入メーカーが納入しなかったということだ。その際はすぐに納入メーカーに確認の電話を入れて大至急納入させるようにする。

迅速な対応の事例

 中国の事例だが、赤札大作戦が終わってからすぐ表示の明確化にチェレンジしていた。紙を貼るだけで保存性は極めて心配だが、それはあとで工夫すればよい。ひとまず実際にやってみることだ。このように実際にやった人を褒めるようにしたい。
 具現化してもらえると多くの人の意見がもらえ、よりよいものがより早くできるのだ。返って品質が悪い方がお金がまだかかっていないということで、変更がためらいなくできるのでよいかもしれない。

楽しくなる事例

 工場では何万点、何十万点というすべての部品の置場が明確になっていなければならない。なぜなら1点の部品がなくても製品はできないからだ。
 ならばこの事務机の上はどうだろうか。ひどく散ばった 状態だ。この状態がこの机の上だけ許されるはずがない。そこで他の部品棚と同様にこの机の上も備品の置場を明確にしてもらった。もちろん日中はいろいろな 作業をするので散らかるのは仕方がないが、終業時には全て定位置へ置いて帰宅するようにする。やはりここまできれいになると楽しくなる。