Ⅰ.ロット生産から1個流し生産への移行による生産リードタイム最短化
図2をご覧いただきたい。
改善前が、ロット生産の状態だ。1つの機械が1つのパレットの品物のすべてを加工し、それが終ったらそのパレットを次の工程の機械の所へ置いておく。この場合は、トレーサビリティのことは一切考えられていないため、不良品が1つ発見されれば、工場内にあるすべての仕掛品についてチェックしなければならなくなる。
改善後は、機械を工程順に近接させ、さらに加工完了品を次の機械へ送るシュートを作った。これにより1個流しが可能になった。これによりトラーサビリティー100%が実現できた。
図3をご覧いただきたい。トヨタ生産方式では「運搬はムダ」と明確に規定しているが、ここでの改善は、その指示通りに、機械を工程順に近接して並べることにより運搬をゼロにしている。これにより「生産リードタイム最短化」「仕掛品の減少」「トレーサビリティの向上」が同時に推進されていることがお分かりいただけると思う。
このようにスローガンとは、象徴的な行為の言葉を掲げることにより、それを全員にやらすことで会社の目的とする方向へ自然と向いていくようにするものである。
Ⅱ.抜取検査で全数検査の
効果を出すための努力
図4をご覧いただきたい。これは自動機械のセルラインの作業要領書だ。作業者の仕事は品質チェック、仕掛品の次の機械へのセット及び起動だ。
品質チェックについてはNo.2は50個に1個検査する。そしてもし不良品を発見したら1回前の検査は合格だったのだから、そこまでさかのぼって調査し、不良品の初品を見つけ出す。No.10は10個に1個検査する。これも同じように、不良品を見つけたら1回前の検査までさかのぼって調査する。これができるのも、不要な仕掛品在庫が一切ないトレーサビリティ100%の工程だからである。
図5をご覧いただきたい。これは自動機械ラインのイメージ図である。ここでも50個に1個抜取検査を行っている。ここもトレーサビリティ100%のため、不良品を発見しても1回前の検査品までの間で、不良の初品を発見すればよい。
図6をご覧いただきたい。この自動機械ラインは各機械が1分加工して、次の機械へワークを自動送りしている。そのようなラインで、1工程の機械はMCT(マシンサイクルタイム)が4分だった。この場合、1分の流れについていくためには機械を4台並列に置いてそれぞれ加工すればよい。
改善前は、4台の機械がそれぞれ加工して、加工終了次第、次の2工程へ流していた。このような状況で、もし次の工程で不良が発見された場合、1工程までのコンベア上のすべてのワークを調査しなければならない。
改善後は、1工程のそれぞれの機械の後ろにストックコンベア(コンベア上の仕掛品置場)を設置する。ワークが貯まって黄色のあんどんが点灯すると、「もうじき品質チェックが必要になるのですぐに来て欲しい」という意味を作業者に知らせる。しかし作業者が来ないままワークが貯まり続け、赤色のあんどんが点灯すれば、同時に機械が稼動しなくなる。作業者はすぐに駆けつけて品質チェックして機械を再稼働させなければ生産計画に遅れが生じてしまう。
そして作業者が来て、最終品を1つだけ品質チェックした結果良品ならば、ストックコンベア上のワークすべてを2工程へ送る。しかしそれが不良品だった場合、ストックコンベア上のワークを最終品に近いワークから1つ1つ調査し、不良初品を見つけ出す。
図7をご覧いただきたい。加工が終った後の通箱まで区分けをして番号つけて、その順番にワークを置くことによってトレーサビリティを確保している。ここまでやっておけば最後の1つを品質チェックし、もし不良品ならその通箱内のワークだけさかのぼって調査すればよい。
Ⅲ.検査のインライン化
トヨタの検査を行う部署は、私がトヨタへ入社したころは、「検査部」と称していた。しかしそれを「品質管理部」に名称変更した。
これは検査部というと「不良を見つけ出す部署」というニュアンスが強い。しかし検査業務というのは、「不良を見つけ出すだけでなく、それを迅速に発生部署に伝えて再発防止を検討させる」ということである。従ってこの全体の業務を「品質管理」ということにした。
図8・図9をご覧いただきたい。検査部時代には、最終工程のあとに検査ラインを置いて不良を発見していた。これで不良の流出防止はできる。しかしこれでは不良を発生させた部署へその現物を見せて、再発防止策を打たせることはできない。なぜなら作業者が不良を発生させてから時間が経ち過ぎていて、その事実を突き付けられても、なぜそのような物を作ってしまったのか原因が分からない場合が多いからだ。そうなるとこの不良は今後も発生し続けることになる。やはり雑草の草だけ摘んでもだめで、根っ子まで除去しないと意味がないのと同じことだ。
そこで検査員を各工程の終りに配置し、そこで検査を行うようになった。これでフィードバックの迅速化が図れるようになった。その検査員の検査業務を作業者の標準作業の中に入れ込んで、作業者にやらせるように変更した。
図4をご覧いただきたい。これは自働機のセルの作業手順書だ。No2,No5,NO6,No10が品質チェックである。これにより機械化された工程の作業者の業務の大きな部分が品質管理に関することであることが分かる。
図10・図11をご覧いただきたい。1個ずつ前工程からワークが流されてくることで、受け取ったワークが不良品ではないか確認する体制も作られた。これも作業者の標準作業の内に入れてしまうのである。これは他人の目でチェックするため思い込みが排除できて非常に効果的である。
Ⅳ.ポカヨケによる工数ゼロで
全数検査の実現
自主検査、順次検査とも人に頼るものである。人に頼ると工数もかかるし、人は必ずポカミスを起こすので信頼性にも欠けるものだった。
そこでポカヨケが発明された。ポカヨケは人が通常の作業をしているだけで、自分の起こしてしまったポカミスを不良になる前に発見してくれたり、前工程から流れてきた不良ワークを見つけ出してくれたりする。工数をかけずに全数検査が可能になったのだ。ポカヨケは人類が発明した最大の仕組みであると言っても過言ではないかもしれない。
図12をご覧いただきたい。従来は間違った方向へ取り付けてしまって不良品を作ってしまう場合があった。管理者は標準作業の内へ、「間違った方向で装着しないように注意すること」ということを入れて対策としていた。しかし人はどんなに注意していても、1000個に1個程という具合にどうしてもポカミスをしてしまっていた。
そこでこのポカヨケが考えられた。これならば、逆装着というポカミスの段階で作業者にそれを認識させることができ、不良には100%至らない。工数も全くかからない。このポカヨケを「不良品発生防止のポカヨケ」という。
次に図13をご覧いただきたい。円形の加工完了品をシュートに流すことで、「削り過ぎの不良品」も「削り足らずの不良品」も関門を通過できない。関門を通過できた物が良品と判断される。さらに、関門で止まったワークがあった場合、それをセンサー等で感知し、自動的に機械の稼働を停止するとともに、あんどんを点灯させて人を呼ぶようにしている。
Ⅴ.ポカヨケの設置に関するルール化(QAネットワーク)
ポカヨケをただ思いつくままいろいろな工程へ設置していても必ずモレが出てしまう。そこできちっとした下記のようなルールに基づいて設置するようにした。(図14・図15・図16参照)
- ① 品質チェック工程の序列化(ABCの3ランクに分類し現場へ掲示)
- ② ポカヨケの効果による序列化(発生防止1,2,3,4の4ランク、流出防止①②③④の4ランクに分類)
- ③ すべての品質チェック工程に「不良品発生防止のポカヨケ」1つと「不良品流失防止のポカヨケ」1つを必ず設置しなければならない。
- ④ どの種類の、どのランクのポカヨケを設置するかは、工程の性質等を勘案してQAマトリックス表のより判断する。