派遣の自由化業務と28業務の違いって?実はこの区別は廃止されている!
派遣社員の区分である「専門28業務」と「自由化業務」の違いを知りたくて情報を探している方は多いでしょう。しかし、そもそもこの区分は廃止されており、派遣社員はまったく違う制度によって雇用されています。この記事では、派遣社員のあり方や、かつての区分が廃止された経緯、2020年に行われた働き方改革について解説します。
もともと派遣社員は「専門28業務」と「自由化業務」に分かれていました。そして、専門28業務は無期限、自由化業務は3年以内働けるなど、それぞれに特徴が異なっていました。ただし、2015年に派遣法が改正され、この区別は廃止されます。2020年現在は、派遣社員は新しい法律に基づいて雇用されています。このように、派遣法はときどき改正され、雇う側、雇われる側の両方に大きな影響を及ぼしているのです。派遣社員や、これから派遣社員を目指すのであれば、法律の変化をチェックしておきましょう。
そもそも、専門28業務とはどのような内容だったのでしょうか。その名称は時代とともに変わっているので、混乱している方もいるでしょう。以下、詳しく説明していきます。
派遣社員なら「政令26業務」「政令28業務」「専門26業務」そして「専門28業務」といった、似た言葉を聞いたことがあるでしょう。これらの言葉は同じ意味です。「派遣社員を雇ってもいい」とされている、特殊な業務を表しています。28や26の違いがあるのは、法改正によって数が増えた時期もあったからです。
専門28業務は、無期限で派遣労働をすることができました。専門性が高く、継続的に社員を雇う必要があるとされていたからです。28業務にあてはまったのは「ソフトウェア開発」「機械設計」といった、ITやメカニックの専門職です。また「放送機器等操作」「放送番組等演出」など、放送業界で働く方も派遣の対象になっていました。そして「事務用機器操作」「翻訳、通訳、速記」「秘書」「ファイリング」など、一般企業のなかでも専門性が高いとされていた職種は専門28業務に含まれていました。
「調査」も特殊な仕事のひとつです。そして「財務処理」「取引文書作成」といった経理関係の業務も派遣に向いていたと言えます。「デモンストレーション」や「添乗」も特定分野の深い知識がなければできない仕事だと言えるでしょう。「建築物清掃」「建築設備運転、点検、整備」など、建築物に関する業務も28に含まれていました。「案内、受付」「駐車場管理等」も、企業や駐車場に欠かせない職種です。「研究開発」「事業の実施体制等の企画、立案」といった、研究所や企画室に関する業務があるのも特徴です。
また「書籍等の制作、編集」「広告デザイン」「インテリアコーディネーター」など、出版業界や広告業界、デザイン業界で重要な業務も28のなかに数えられました。「アナウンサー」も専門的な訓練なしにできません。さらに「OAインストラクション」「テレマーケティングの営業」「セールスエンジニアの営業、金融商品の営業」といった、さまざまな営業職も28業務です。そして「放送番組等における大道具、小道具」も専門職とみなされていたほか「上下水道施設、一般廃棄物処理施設の運転・点検」も施設の安全を守るうえで大切な業務として28業務に含まれていました。
専門28業務に含まれない職種は「自由化業務」に区分されていました。これらの職種はかつて「専門性がそれほど高くない」とみなされてきたのです。この段落では、自由化業務について紹介します。
専門28業務に該当しない業務を「自由化業務」と呼んでいました。「一般派遣」と表す場合もあります。もともと派遣業とは、専門的な知識、スキルを駆使して働く方を対象としていました。しかし、特に専門的なスキルがなくても、事情があって派遣業を選択したい方も少なくありませんでした。また、短期的に労働力を確保できるので、企業側にも「派遣社員を積極的に雇いたい」とのニーズがあったのです。そこで、専門28業務以外を自由化業務と呼ぶことにより、派遣業務は多くの方に開かれていったという経緯があります。
3年という上限付きで、自由化業務は派遣社員を雇うことができていました。ただし、3年以内の有期プロジェクト業務は例外となります。また、産前産後休業や育児休業、介護休などを希望する派遣社員を雇う場合、自由化業務に該当する職種であっても受入は無期限となっていました。
2015年の法改正で、専門28業務と自由化業務の区別は廃止されました。そして、同じ組織で派遣業を行う場合、職種を問わず受入期間は3年までに統一されたのです。理由としては、まず「派遣社員のキャリアアップをサポートするため」です。専門28業務は受入期間が無期限だったので、派遣社員の雇用状況は安定していたと言えます。そのかわり、長年、同一組織に勤めているにもかかわらず、派遣社員から正社員に登用されにくいという現象も起こっていたのです。業務の区分が廃止されたことにより、3年を目安にして派遣社員がキャリアアップのチャンスに巡り合える可能性も高くなりました。
次に「区分が曖昧になったこと」も大きな理由です。専門28業務は特殊なスキルや知識を要する仕事とされていたものの、ソフトウェアやシステムの発達により、キャリアの浅い社会人でもこなせるようになっていきました。「専門性」という概念そのものが形骸化した職場も増えていったのです。その結果、専門28業務という区分そのものに疑問が持たれ始めました。そのほか「国の事情」も理由のひとつと言えるでしょう。できるだけ非正規雇用を減らし正規雇用を増やしたいという政府の願いがあったので、無期限の派遣労働が考え直されました。そして、派遣に期限が設けられる形となったのです。
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派遣社員に関する語句のひとつで「抵触日」があります。抵触日とは、派遣期間である3年を迎えた、翌日を指す言葉です。すなわち「期限が切れているので、これ以上派遣社員として働かせるのは法律に抵触する」という意味が込められています。そのため、派遣社員からすれば「抵触日の前日までは派遣契約が守られる」という考え方ができます。会社側は、抵触日までに派遣社員との契約を打ち切るか、更新するかの判断をしなければなりません。万が一、抵触日以降で何の手続きもせず、同一組織で働いてしまうと「派遣社員が法を犯した」とみなされます。
派遣社員が抵触日を確認する方法は主にふたつです。まず「就業条件明示書」を読みましょう。派遣の契約を結んだ時点で、就業条件は文書化されているはずです。当然、そこには契約期間も明記されています。ただ、注意したいのは抵触日とは「契約が切れた翌日」であるという点です。たとえば「契約が8月31日まで」だとすれば、抵触日は9月1日となります。8月31日までは同一組織で働けます。次に、派遣会社の担当者に聞くのも確実な方法です。派遣会社では全派遣社員の労働条件を把握しています。派遣社員のほうから質問すれば、即座に条件をチェックしてくれるでしょう。
法改正が2015年に実施され、全派遣社員の契約期間は「3年」に統一されました。ただ、法改正が行われた当時は「2018年問題」という表現で、派遣社員の不安が大きく報道されていました。2015年の法改正から3年後にあたるのが2018年です。つまり、2018年になれば契約を打ち切られた派遣社員が続出されるリスクがささやかれていたのです。もちろん、派遣先が3年を超えても雇い続けたい場合には、無期雇用に切り替える選択肢も残されています。ただ、派遣社員との契約を無期限に切り替えたいと考える企業は少なく、2018年に向けて世間の不安は募っていきました。
2018年問題が浮上した背景として、派遣社員を雇う企業が賃金を安く抑えることだけを目的にしているという考えがあったと言えるでしょう。たしかに、派遣社員をたくさん雇えば人件費を抑えられます。ただ、実際には派遣社員側も非正規で働きたい事情を抱えているケースが多く、一概に人件費削減だけが目的とは断定できません。一方で、2018年以降、多くの企業が派遣社員の人員整理に着手しているという噂も出てきました。これはあくまでも噂なので、深刻に捉えすぎる必要もありません。ただ、派遣社員が自分の身を守るために、抵触日や契約の上限といったルールをしっかりと学んでおくことは大切です。
2020年にも派遣法には大きな改正がありました。働き方改革の一環として「同一労働同一賃金」が施行されたのです。これまでは正規雇用と非正規雇用で賃金の基準が違うのは当たり前でした。しかし「同じ職場で同じ仕事をしているのに、賃金だけが違うのはおかしい」という批判が起きたのです。そこで、派遣社員と正社員の給料格差を埋めるための改正がなされました。改正後は、派遣先の待遇で働く「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の待遇で勤務)と、派遣社員と派遣元のあいだで労使協定を結ぶ「労使協定方式」の選択制へ移行しています。
さらに、均衡待遇規定の明確化も雇う側の義務となりました。派遣社員の待遇をはっきりと示し、適切な判断をするための条件を知らせなければならなくなったのです。法改正では、説明義務も強化されています。派遣会社は派遣社員から労働内容についての説明を求められたとき、細かく説明しなければなりません。そのほか、ガイドラインを策定して、派遣社員が自分に合った待遇を選べる手助けをすることも法律で決められました。これらの取り組みが実現することにより、派遣社員と正社員の不合理な格差は正されつつあります。
派遣労働者の生活は、派遣に関する法律の改正によって左右されます。おおむね、改正にはメリットが多いものの、働き方によってはデメリットに傾くことも珍しくありません。いずれにせよ、正しい知識を持って対処しなければ、トラブルに直面してしまうでしょう。法改正についてしっかりチェックし、自分の働き方を常に考えておくことが大事です。