派遣社員のダブルワークは基本的にはOK!保険・税金などの注意点を紹介
派遣社員として十分な収入を得られないとき、ダブルワークを考えるのではないでしょうか。時間や体力があれば派遣先以外で働くことは可能ですし、特に禁じられていなければ勤務先に迷惑がかからない範囲で行えば問題はありません。ただし、2カ所以上の会社で給与を受け取る場合は、社会保険や税金に関して自分で各種の手続きをする必要があります。ここでは、ダブルワークの注意点や手続き方法などについて紹介します。
まず理解しておきたいのは、派遣社員として働く場合、雇用形態が「常用型派遣」なのか「登録型派遣」なのかという点です。常用型派遣の場合は、派遣元の会社に常時雇用の正社員として雇用契約を結んでいるため、身分は正社員となります。一方、登録型派遣の場合は、派遣先で就労する期間限定で派遣元の会社と雇用契約を結ぶ働き方です。
前者の常用型派遣は、派遣元の会社の無期雇用の正社員ですので、派遣先の会社の契約期間が終了し、次の派遣先が決まるまでの空白期間も給与が支払われます。つまり、就労する場所が会社以外の場所であるだけで、普通の会社の正社員と身分は同じため、会社の就業規則には従わなければなりません。社会では副業解禁の流れにあるものの、就業規則でダブルワークが禁止されていれば規則を守らなければなりません。禁止されている理由としては「十分な休息を取れないため業務に支障が出る可能性がある」「同業他社への情報漏洩の可能性がある」などが挙げられます。
では、登録型派遣の場合はどうでしょうか。短時間勤務や派遣期間が短期の場合などは、ダブルワークを禁じているケースは少ないでしょう。フルタイムの場合もそこまでの制限を設けていないことも多いですが、就業規定について念のため派遣会社に確認しておいたほうがよいでしょう。万一、2カ所以上の会社から給与を支給されている場合は、ダブルワークを隠していてもいずれ会社に知られてしまいます。前年度の所得に対する住民税の通知が自治体から会社に届くため、会社が支払った所得よりも多ければ「うちの会社以外に給与所得があるようだ」と知られてしまうわけです。
派遣社員で特にダブルワークが禁じられていなければ、派遣の掛け持ちやアルバイト、パートなどのダブルワークが可能です。ここでは、派遣社員がダブルワークをするメリットを紹介します。
ダブルワークをすることで、単純に得られる収入が多くなります。新型コロナウイルス感染対策による営業時間の短縮のあおりで給与が減ったという方もいるかもしれません。そのようなときにも、ほかの収入源があれば家計のやり繰りに影響せずに済むでしょう。また、留学や開業、親からの自立などの目的があり、資金を貯めるために稼ぎたいという場合も、ダブルワークにより効率よく収入を増やすことが可能です。ただし、ダブルワークをすることは、労働時間が延びるなどのデメリットもあります。
まずは「収入を増やす」ことを実行する前段階として、月々の支出の節約が可能かどうか検討してみるとよいでしょう。毎月の収支をきちんと管理して、固定費や変動費を見直してみて削れる部分を貯蓄に回すなどすれば貯金のペースも早まるでしょう。
ダブルワークは自分のメインの仕事以外に「やってみたかった仕事」「趣味を生かせる仕事」などに挑戦できるメリットもあります。自分がメインとする業種や職種以外の仕事を選ぶことで、新たなスキルや経験を積めます。たとえば、ゆくゆくは飲食店を開業したいと考えている方なら、好きな飲食店でアルバイトをして開業資金を貯めつつ、現場で飲食店経営やサービスのノウハウを学ぶことができます。実際の経験を積んで知識を身につけることは将来に向けての財産になり、開業のイメージがより具体的になるでしょう。
また、興味があるもののフルタイムで働くのがキツイと感じて諦めていた仕事があっても、短時間なら働けるでしょう。将来の目標がはっきりしない方でも、スキルを身につけることで成長の糧になります。今後の職種の選択肢が増えるなど後々の役に立つかもしれません。
ダブルワークをするからには、メインの派遣の仕事に影響しないよう覚悟をもって取り組む必要があります。そこで、ダブルワークをするうえで知っておきたい注意点を紹介します。
1日4時間や週3日などの時短勤務は、既婚者や子どものいる主婦、シングルマザーやシングルファザーなどの家庭でも働きやすいと言えます。仕事が見つからない場合は、時短勤務が可能なアルバイトやパートなどのダブルワークで足りないぶんの収入を補うことを考える方もいるでしょう。しかし、派遣社員としてフルタイムで働いている場合、ダブルワークをするとなると1日8時間を超えて働くか、週休2日制のところを週1日の休みにするか、あるいは休日をつぶして働くことになりかねません。
常時フルタイムの派遣にプラスして副業を続けた場合、疲労が蓄積して体調を崩してメインの派遣の仕事に支障をきたすことになってしまいます。身体の疲労だけでなく、働き詰めで自分の時間が持てなくなることは、精神的にも悪影響を及ぼす可能性があります。一時的な働き方として短期間だけ割り切って働くか、よほど体力に自信がある方以外は、フルタイムの派遣とほかの仕事を掛け持ちで行うのは止めておくことをおすすめします。
どうしてもダブルワークを希望するなら、仕事内容を吟味して疲れにくいものにするか、週の2~3日のごく短時間に留めるなどして、決して無理をしないように注意しましょう。身体を壊して派遣の契約も打ち切られてしまっては元も子もありません。
ダブルワークをする場合、それぞれの仕事時間に加えて移動時間なども加味して時間帯がかぶることのないように、十分に配慮しなければなりません。どちらかで残業があるかもしれないことを想定して、余裕をもったスケジュールを組む必要があります。公共交通機関を使う場合は、移動や乗り換え、多少の遅延などの時間も含めて考えなければなりません。食事や休息の時間、家事や用事などいろいろ勘案するとスケジューリングするのは意外と難しいものです。
会社から月々の給与を受け取っている方は、年末調整をする必要があります。年末調整とは、給与から天引きされた1年間の所得税を正しく計算し直して過不足を調整するものです。年末調整の手続きは、通常は給与を支払っている会社の経理担当者が行ってくれます。正しい所得税額を計算して会社がまとめて所得税を納めてくれるため、通常は個人が行動する必要はありません。とはいえ、ダブルワークで2社以上の会社から給与を受け取っている場合は、両方の会社でそれぞれ年末調整が行われると正しい所得税額の計算ができなくなります。そのため、納めるべき所得税額より多く納めることになったり、少なく支払った場合は後から追徴課税が請求されるので、実際よりも多く納めなければならなくなったりします。
そのようなことが起こりうるため、勤務先が複数ある場合は、どちらかの会社にダブルワークの所得も一緒に申告して年末調整をしてもらわなければなりません。通常は、給与の額が多いほう会社に手続きしてもらうことになるでしょう。しかし、どちらの会社にも頼みづらい方や、ダブルワークをしている勤務先を知られたくない方もいるかもしれません。その場合は自分で確定申告をする方法があります。
派遣でも条件を満たせば雇用保険や社会保険に加入できます。ただし、ダブルワークの場合は、どちらか1カ所の事業所でしか加入できません。一般的には、より多くの給与をもらっている会社で加入することがほとんどです。そのほうが失業給付や労災を受け取る際の金額が多くなるためです。収入が少ないほうの会社には、事情を話して雇用保険には入らないと伝えましょう。
社会保険は、勤務する会社が保険適用事業所であり、短期や期間限定でなく常時雇用の形態で、同様の業務を行う正社員の4分の3以上の労働時間および労働日数があれば加入することになります。また、正社員の4分の3未満しか働いていなくても、会社の従業員が常時501人以上の規模で、常時雇用で1週間に20時間以上勤務し、月額の給与が8.8万円以上、年間106万円以上の収入がある場合は社会保険に加入する義務が生じます。
社会保険は、雇用保険のようにどちらか一方の会社で加入すればよいというわけにはいきません。社会保険の加入条件を満たすなら、自分で「健康保険・厚生年金保険所属選択・二以上事業所勤務届」を作成し、健康保険組合や年金事務所などに提出する必要があります。そうすることで、どちらの会社の給与からも社会保険、介護保険、厚生年金保険の保険料を按分して天引きされます。
確定申告は、基本的に決められた書式に則って記入すればよいだけなので、そう難しく考えることはありません。ここでは「確定申告なんてやったことがないからわからない」という人のために、確定申告の基本から解説します。
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対する所得税を正しく算出して税務署に申告することです。通常は、1つの会社にのみ勤めていれば会社がすべて社員の代わりに行ってくれます。ダブルワークをして複数の会社から給与を受け取っている場合は、両方の会社から源泉徴収票が発行されるので、記載された金額をもとに確定申告書の所定の項目に記載します。住宅ローン控除や医療費還付申告などがあれば、必要書類を持参しましょう。確定申告は、税務署や自治体の出張申告コーナーなどのほか、インターネットで国税庁のe-Taxを利用して申告することもできます。
初めてでよくわからない場合は、税務署や確定申告相談コーナーなどに出向き、担当者に相談しながら書類を完成させるのが一番確実で簡単です。なるべく混まない時期や時間帯を見計らって行くことをおすすめします。一度要領を覚えたら、翌年からは自分で作成したりe-Taxを利用したりするとよいでしょう。
本業であるメインの派遣以外の所得が年間で20万円を超えると確定申告が必要です。ダブルワークの場合、パートやアルバイトの所得がその年に20万円を超えたら確定申告をすることと覚えておきましょう。給与ではなく、ハンドメイド販売やアフィリエイト収入などの売上の場合は、収入を得るために使った経費を差し引いた残額が20万円を超えていれば確定申告が必要です。自宅で行っている場合は、家賃や水道光熱費、通信費などを按分して経費にできます。
一定の所得があったにもかかわらず期限までに正しく所得税を納めないと、罰則が課されることがあります。無申告加算税や延滞税などの重いペナルティが科せられ、実際に納めるべき税金よりも多く納めることになるため気をつけなければなりません。特に、何もわからないからと放置し続けていると、脱税と見なされて刑事罰の対象にもなるおそれもあります。
「派遣の給料では足りない。スキルも身につけたい」と考えるなら、ダブルワークをせずに、希望条件を満たす仕事に転職する方法もあります。一例では、大手メーカーに期間工として直接雇用されれば給与や待遇もいいですし、入寮すれば生活費も節約できます。社会保険完備で会社が労務管理してくれるため働きすぎることもありません。正社員登用の道もあり、未経験からモノづくりの世界に入ることも可能です。