派遣社員がインフルエンザになったら?傷病手当金の申請の方法について
病気になった派遣社員は、立場が悪くなることを恐れて無理やり出社することもあります。たとえば、インフルエンザのように感染率の高い病気であっても黙ってしまう方はいるでしょう。つい無理をしてしまうのは、休んだ分の給料、契約への影響が気になるからです。この記事では、派遣社員がインフルエンザにかかったときにとるべき行動をまとめました。
そもそもインフルエンザは必ずしも休まなくてはならない病気なのか、気になるところです。仮に休むとして、どのくらいの期間大人しくしなければならないのかも知っておくべきポイントです。ここでは、インフルエンザになったときの対応を解説します。
「労働安全衛生規則61条」により、インフルエンザは「伝染性の疾病その他の疾病」に指定されています。すなわち、同僚に感染させる確率が非常に高い病気だと規則によって定められているのです。そのため、インフルエンザにかかったら出勤停止となるのが原則です。ただ、「インフルエンザになったことを隠して出勤すれば問題ないのではないか」と考える方もいるでしょう。ただし、自分が発症していることを知らせなかったとしても、同僚や家族に感染するリスクは消えません。周囲の人々の健康と安全を守るには、出勤せず療養することが大前提です。
インフルエンザは、発症前日から発症後の3~7日間は鼻やのどからウイルスが排出されている状態になります。近くに人が来るとウイルスを伝染させてしまい、被害を広げることになりかねません。そのため、学校保健安全法では「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」という目安を設けて、感染者の安静を呼びかけています。つまり、発症してから5日、解熱後2日は大人しくしているべきだといえるでしょう。同じことは、社会人にもあてはまります。発症したら7日間は出勤せず、家にいるのが基本です。たとえ7日が経過したとしても、症状が改善しないようであれば休む期間を長くするのが得策です。
派遣社員の方は「インフルエンザとはいえ、休んでしまうと契約に響くのではないか」という不安も抱いているでしょう。しかし、こうした処罰は違反にあたることがあります。ここでは、詳しく説明していきます。
派遣先や派遣会社が派遣社員に出勤を強要した場合、労働安全衛生法および労働契約法違反となる可能性が出てきます。そして、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる危険が生まれます。つまり、インフルエンザ感染者を無理に働かせるのは、法律で裁かれる行為なのです。そもそも、感染者を強制的に出勤させれば、当人はもちろん、同僚の健康も大きく害することがありえます。これは企業が守るべき「安全配慮義務」に背いた行いであり、許されるものではありません。原則として、意図的に感染者を回復前に働かせることはできないのです。
派遣会社の多くは、インフルエンザで休んでしまうことで契約を打ち切られるのではないかと悩んでいます。あるいは、インフルエンザにかかったことを過失として責められる危険を考えてしまうでしょう。しかし実際は、インフルエンザを理由に派遣切りを行うのは禁止されています。もしも契約を打ち切られそうになったら、就業条件明示書と診断書に基づいて労働基準監督署に不当解雇を申し出るのが得策です。申し出が受け入れられた場合、労働基準監督署から派遣会社に対して不当解雇の撤回が要求されます。もしくは、解雇予告手当の支払いが命じられます。
解雇予告手当とは、契約期間に支払われるはずだった給料の残りです。不当解雇に対しては派遣社員に補償がなされるので、泣き寝入りせずに済むといえます。
発病後の手順を省略していると、いざというときに不当解雇を証明できなくなります。派遣社員自身の立場を守るために、正しいポイントを押さえて行動しましょう。この段落では、インフルエンザになってからとるべき選択肢を紹介していきます。
派遣会社によっては、病欠の際に診断書を要求してきます。特に、インフルエンザのように長い療養を求められる病気では、その理由を証明する書類が必要になることも珍しくありません。あらかじめ派遣会社に確認をしたうえで、提出を求められるようであれば診断書を病院からもらっておきましょう。診断書の値段は2000~5000円ほどです。もしも必要であるにもかかわらず、診断書をもらわないまま休んだら自己欠勤扱いにされかねません。自分の判断で休んだと解釈されるため、不当解雇を証明することが難しくなってしまいます。
インフルエンザであることを隠して休んでしまう方もいます。あるいは、連絡が遅れて当日の朝などに欠勤を伝えてしまうケースも少なくありません。しかし、派遣会社は事情が分からないまま数日間も休む人間に対し、不信感を抱くこともありえます。また、インフルエンザであったとしても、直前になって連絡されるのは迷惑に感じるものです。インフルエンザだと判明した時点ですぐ派遣会社と派遣先に連絡をして、なるべく仕事の穴埋めをしてもらいやすい状況を作りましょう。
さらに、連絡をした際には症状の詳細も説明しておきましょう。いつから熱があって、およそどれくらいで回復しそうなのかを伝えると、派遣会社も派遣先も現場の調整をしやすくなります。これだけの根回しをしておけば、後は体力回復に集中するだけです。熱が下がってもすぐには外出せず、2日間は家に留まるようにします。
インフルエンザからの回復がいつになるのか、正確な予測はなかなかできません。だからこそ、連絡を怠っていると、本人が行けると思っていた日に間に合わず、現場に迷惑をかけてしまう可能性が出てきます。また、当初は「1週間で戻ります」と言っていても症状が悪化し、療養期間が延びてしまうケースも珍しくありません。そこで、復帰できそうな日の検討がついた時点で派遣会社に伝えましょう。そうすれば現場も帰ってくる日を想定して作業を割り振ってくれます。
派遣社員は出勤した日数だけ給料を受け取ることができます。そのため、インフルエンザで長く休んでしまうと、給料が減ってしまう危険と隣り合わせです。こうした問題を解決するためには「傷病手当金」を利用してみましょう。ここからは、傷病手当金の概要や申請方法などについて説明していきます。
健康保険制度の一種です。従業員が病気やけがのせいで十分に働けず、本来の報酬を受け取れなかった場合に給料の6割を補償してもらえる仕組みです。傷病手当はあくまで健康保険の中に含まれている制度なので、会社から支払われるお金ではありません。健康保険に加入している方なら誰でも申請可能です。当然ながら雇用形態も関係なく、派遣社員も問題なく受け取れます。
第1に「業務外の理由で健康を損なったこと」です。インフルエンザなどの病気は、業務とは無関係にかかることが多いので、傷病手当金の対象となります。ただ、業務を原因とした病気、ケガが補償の対象にならないわけではありません。その場合、申請するのは傷病手当金ではなく、労災となります。次に、「仕事をすることができない状態」が条件です。インフルエンザは本人に労働意欲があったとしても、症状の悪化や感染拡大を防ぐために療養しなくてはならない病気です。そのため、傷病手当金の条件に該当します。
「連続する3日間を含んで4日以上出勤できなかったこと」もポイントです。インフルエンザは発症後、少なくとも5日は療養しなくてはならないので条件を満たす可能性はあるといえます。なお、この出勤できなかった日数に「待機期間」にあたる3日間は含まれません。仕事のできない状態になってから最初の3日間が待機期間です。ただし、待期期間は有給休暇や土日、祝日などの公休日も該当します。そして、「休んだ間の給料が支払われていないこと」も重要な条件です。派遣社員は原則的に休んだだけ報酬がなくなるので、ここにもあてはまります。
先述の通り、待期期間にあたる3日間は傷病手当金の対象外です。ただ、この期間には有給をあてることで解決します。有給は出勤したら支払われるはずだった全額を受け取れる仕組みなので、残されていれば積極的に取得しましょう。一方、傷病手当金は標準報酬日額の3分の2が目安です。要するに、日給の3分の2程度です。全額ではないものの、生活を支えていくうえでは貴重な額といえます。ただ、傷病手当金は申請書を提出してから口座入金までに時間がかかります。平均して1~2カ月ほどの間が空いてしまうため、想定して支払いや買い物をやりくりしておくことが大事です。
大前提として、傷病手当金は派遣社員本人が自主的に申請しなくてはなりません。派遣会社ですら、制度を教えてくれることはまれだといえます。また、誰かが手続きを代行してくれるわけでもないので、自分で動くように心がけましょう。次に、加入している健康保険組合へと連絡を取ります。手当金を支給してくれるのは保険組合になるため、制度の詳細を教えてくれるからです。手続きに関する不明点も、担当者に聞くのが得策です。
組合の担当者を通して必要な書類を調べたら、取り揃えたうえで提出しましょう。ここで押さえておくべきなのは医師からの診断書です。病状を証明するために求められる可能性が高いため、診察を受けたときに申請しておくのが賢明です。なお、保険組合によっては会社側に欠勤の事実を記述してもらう形式があります。このような申請書は派遣会社にお願いするのが正しい筋道です。
自分の健康が悪化するだけでなく、インフルエンザは周囲に迷惑をかけてしまいます。もしも感染したら無理をせず、自宅でゆっくり療養に努めましょう。ただ、休んでいる間の報酬が失われるのは、派遣社員にとって気になるポイントです。その分の給料については傷病手当金で補償してもらうなどして対策を考えておくことが大事です。