派遣社員の「勤務先」はどっち?派遣元を書く場合と、派遣先を書く場合がある
クレジットカードをつくるときや子どもの通う保育園に緊急連絡先を知らせるときなど、勤務先の記入が求められる機会は意外とあるものです。派遣社員の場合、派遣会社と派遣先企業のどちらを書くべきなのか、迷うことが多いのではないでしょうか。そこで、ここでは、派遣社員が勤務先を問われたときに派遣会社と派遣先企業のどちらを答えるべきなのか、ケース別に紹介します。
「勤務先」には「就職し所属している事業所」と「実際に働いている職場」の2つの意味があります。たとえば、A株式会社に正社員として就職し、B支店に配属されたとしましょう。この場合、「所属している事業所」と考えれば勤務先は「A株式会社」となり、「実際に働いている職場」ととらえれば「(A株式会社)B支店」となります。とはいえ、いずれのケースもおおもとは「A株式会社」であり、支店名まで詳しく書くかどうかの違いしかないため、そう迷うことはないでしょう。
一方、派遣社員の場合は事情が異なります。派遣社員が雇用契約を結んでいるのは派遣会社でありながら、実際に働いているのは派遣先企業だからです。つまり、「所属事業所」と「実際の職場」がまったく異なっています。それでは、どちらを答えればいいのでしょうか。一般には、一部の例外を除き、派遣社員が勤務先を問われたら「登録している派遣会社名」を答えるのが正しいとされています。なぜなら、派遣社員を雇用しているのは派遣会社だからです。
派遣社員への給与の支払いも福利厚生の提供も派遣会社が行っています。派遣先企業にとって派遣社員は「派遣されてきた派遣会社の社員」であり、契約期間が満了して更新がなければそこで終わる関係にすぎません。そのため、派遣社員の勤務先は、原則として派遣会社になるのです。
派遣社員の勤務先は派遣会社とすることが一般的ですが、なかには例外もあります。たとえば、派遣会社と1週間以上の派遣契約を結んだ派遣社員に発行される「就業条件明示書」では、勤務先に派遣先企業の名前や連絡先が記載されています。就業条件明示書は、派遣会社が派遣社員に詳細な労働条件を知らせるための書類です。正社員やパートに対して発行される労働条件通知書と同じような役割を果たします。通知書には就業する場所がどこかを記す必要があり、勤務先に派遣会社名を記入してしまっては意味をなしません。そのため、派遣先企業の名前や連絡先が記載されるのです。受け取ったときは、内容に間違いがないかしっかり確かめておきましょう。
クレジットカードやローンの申請をする場合も、申し込みフォームに勤務先を記入する際は注意が必要です。派遣先企業が大企業や有名企業の場合、「信頼度が高く審査に通りやすくなりそうだからそちらを記入したい」と考える人もいるでしょう。しかし、基本的にクレジットカートやローンの申し込みでは「派遣会社名」を書きます。これは、在籍確認ができないなどの理由で審査に落ちるリスクを回避するためです。ただし、金融会社によっては「派遣社員の方は派遣会社と派遣先企業の両方をご記入ください」もしくは「派遣先企業をご記入ください」との指示書きがあるケースもあります。その場合は、もちろん指示に従って記入しましょう。
履歴書や職務経歴書に勤務企業を記入するときも、どう書けばいいか迷うものです。これらの書類に記入する際は、派遣会社と派遣先企業の両方を記入する必要があります。なぜなら、履歴書や職務経歴書は自分の職歴やそこで担当した業務などを示すために書くものだからです。派遣会社名だけを記入しても、これまでどのような会社でどのような業務を経験してきたのかが提出相手に伝わりません。しかし、派遣先企業とは直接の雇用関係にないため、両方を記す必要があるのです。記入方法に明確な決まりはありませんが、「登録した派遣会社」「派遣先企業と職種」「派遣先企業の就業期間」の3点をわかりやすく書くようにしましょう。
履歴書の記入例を挙げると、以下のようになります。株式会社○○が派遣会社、××株式会社と△△株式会社が派遣先企業です。
××株式会社海外営業部に派遣社員として就業(平成28年3月まで)
平成28年4月株式会社△△海外事業部に派遣社員として就業
海外営業事務を担当
平成31年3月派遣期間満了につき退職」
ポイントは、派遣会社には「入社」ではなく「登録」と書く点と、派遣社員として就業したことがわかるようにする点の2つです。
職務経歴書の記入例は以下のようになります。
事業内容:半導体製造
資本金:○億〇千万従業員数:2000名
【業務内容】
海外営業部として海外営業事務を担当
・海外の関連子会社からの受発注業務
・輸出入書類の作成…
【実績】
…
2016年4月~2019年3月△△株式会社海外事業部に派遣社員として勤務/派遣元:株式会社○○
事業内容:半導体製造資本金:○億円従業員数:3000名
【業務内容】
…
20年3月派遣期間満了につき退職」
職務経歴書には、派遣社員として勤務したことを明記したうえで、担当した業務の内容や実績、スキルなどを詳しく記載しましょう。
子どもが保育園や小学校などに通っている場合、保護者の緊急連絡先として勤務先の記入が求められます。これは、子どもが在園・在学中に何かあったとき、すみやかに保護者に連絡をとるために必要なものです。派遣会社の連絡先を書いていると、保育園や学校から連絡があったときにすぐに応えることができません。スムーズに連絡を受け取るために、派遣先企業の連絡先を書いたほうが良いでしょう。
クレジットカードやローンに申し込むと、在籍確認が行われます。これは、申込者が申告した勤務先に本当に勤めているかどうかを確認するために、クレジットカード会社が行うものです。カード会社としては、安定した収入がなかったり極めて低収入だったりして支払い能力に欠ける人にクレジットカードを発行するわけにはいきません。なぜなら、ショッピングやキャッシングで使ったお金を支払ってもらえない恐れがあるためです。そこで、申込者本人がちゃんと勤めているかどうかを知るために在籍確認が行われます。
在籍確認の方法はシンプルで、クレジットカード会社から勤務先として申告された職場に電話をかけて、いるかどうかを確かめるというものです。このとき、外回り中や会議中などで申込者本人が電話に出られなかったとしても問題はありません。電話に出た人が「ただいま、○○は席を外しております」などと答えればその職場に在籍していていることがわかるため、在籍確認は問題なく完了します。ところが、もし電話に出た人が「そのような人はおりません」と答えたらどうなるでしょうか。申告した職場に在籍していないことになり、クレジットカードの審査に落ちる可能性が高くなります。
クレジットカードやローンの申し込みの際に、実際に働いている派遣先企業ではなく派遣会社名を記入する必要があるのはこのためです。実際に働いている派遣先企業のほうが、スムーズに在籍確認がとれるのではと思う方もいるかもしれません。しかし、派遣先企業の代表番号などに在籍確認の電話があった場合、よそからきている派遣社員の存在を明瞭に把握していない可能性があります。そのため、在籍確認の電話をとりついでもらえなかったり「当社に該当の社員はいません」と答えられてしまったりすることがあるのです。これでは在籍確認がとれないため、審査に通過できない可能性が高くなります。
一方、派遣会社では、登録している派遣社員は自社のデータベースで管理しています。在籍確認の電話があれば、データベースを検索して「在籍しています」と答えてくれるでしょう。ただし、派遣会社に登録していても、就業していない状態であれば注意が必要です。無期雇用派遣の場合は別として、一般の派遣社員は働いていなければ無職と同じ扱いとなります。すると、「在籍はしていますが、現在は就業していません」と答えられてしまう可能性があります。就業していなければ給料も発生しないため、審査に影響を与える可能性が高いです。
先にも述べたように、クレジット会社によっては「派遣先企業を書いてください」「派遣会社と派遣先企業の両方を書いてください」と指示されるケースもあります。その場合は、もちろん指示どおりに正しく記入しましょう。なかには、勤務形態として「派遣社員」を選択すると自動的に「派遣会社名」「派遣先企業名」の2つの入力フィールドが表示されるフォームもあります。この場合は迷わず両方に記載しましょう。申し込みフォームには正しい情報を記載することが大切です。もし、虚偽の申告をしたと取られてしまうと、そのときの審査に落ちるだけではなく、次に申し込んだときにも落ちやすくなります。ミスしないように慎重に入力しましょう。
派遣社員のなかには「正社員ではないからカードに申し込んでも落ちるだろう」と考え、あきらめている人もいるのではないでしょうか。クレジットカードの審査基準はカード会社によって異なります。たとえば、年会費無料でステータスの高くないカードであれば、派遣社員でも審査に通る確率が高いです。また、働き始めてすぐに申し込むよりも、1年以上勤務してから申し込んだほうが審査に通過しやすい傾向があります。これは、1年勤めたことで継続して安定した収入があることが証明できるからです。さらに、クレジットカードには現金を借りられるキャッシング枠がありますが、申し込みの際にはこれをゼロ円にしておきましょう。キャッシング枠を高く設定すると審査が厳しくなるため、落ちる可能性が高くなってしまいます。
派遣社員が勤務先を記入するときは、基本的に派遣会社の名前を書きましょう。これは、派遣社員が契約を結んでいるのは派遣会社だからです。クレジットカードやローンの申し込みをする際も、派遣会社名を書きます。ただし、派遣先企業名を書くように指示があったときは従いましょう。また、子どもの保育園や小学校で保護者の緊急連絡先を書いて提出する際は、勤務先企業のほうが適しています。状況に合わせ適切に書き分けましょう。