2020.8.18

派遣社員が納める税金とは?給料から天引きされるもの、されないもの

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派遣社員とは、実際に働く会社(派遣先企業)とは別の会社(派遣会社)と雇用契約を結んで働く労働者であり、給与は派遣会社から受けます。派遣社員も正社員と同じ給与所得者ですが、天引きされる税金の種類が異なるため要注意です。また、通常は必要がない確定申告が要件によって必要となるケースもあります。そこで、この記事では、派遣社員の税金の納め方や確定申告が必要となる条件、具体的な手続きなどについて解説します。

1.派遣社員の給料から天引きされる税金

仕事をすると労働の対価として、基本給や各種手当、残業代などさまざまなお金が労働者に支給されますが、それらをすべてそのまま受け取れるわけではありません。給与明細を見ると、給与から差し引かれている金額があります。差し引かれている金額は労働者が納めなければならない税金や保険料などです。このように、給与から事前に必要な税金などを差し引いておくことを「給与天引き」といいます。

給与天引きされるものは、主に社会保険料と税金です。社会保険料には、たとえば、厚生年金保険料や雇用保険料、健康保険料などがあります。派遣社員でも条件さえ満たしていれば社会保険に加入することができ、加入した場合には給料から天引きされることが一般的です。一方、税金は正社員と派遣社員とで天引きされるものが異なるため注意が必要となります。派遣社員の給与から天引きされる税金は所得税のみです。

所得税とは個人の1年間(1月1日から12月31日)の所得にかかる国税で、納める金額は個々の所得に応じて決まります。ただし、その年の給与の合計額は年末にならないと正確にはわかりません。そのため、毎月支払う給与の情報から会社がおおよその所得税額を算出し、概算額を毎月給与から天引きしておきます。毎月天引きした概算額の合計と正確な所得税額を調整するために行われるのが年末調整です。

所得税は収入が多い方ほど額も大きくなります。具体的には、収入から所得控除額を差し引いた金額に所得税率を掛けて算出します。所得控除できるものは、すべての方が適用対象となる基礎控除のほか、生命保険料控除や配偶者控除、医療控除などです。所得税率は所得額が高くなると段階的に上がる仕組みで、たとえば、課税所得額が195万円以下の場合は5%、195万円を超え330万円以下だと10%、330万円超695万円以下は20%です。

2.派遣社員の給料から天引きされない税金

正社員の場合には給料から天引きされるものの、派遣社員だと天引きされない要注意の税金が住民税です。住民税には大きく分けて、個人が納める「個人住民税」と法人が納める「法人住民税」があります。どちらも、住所を置く都道府県や市区町村に対して納める地方税です。個人住民税には住民すべてが定額で納める均等割や所得金額に応じて納める所得割などがあります。同じように所得に応じて納付する税金でも、所得税は所得を受けた年にかかる税金ですが、住民税の所得割は前年の1月1日から12月31日の所得が課税対象です。

住民税の納付方法は2つあり、1つが「普通徴収」、もう1つが「特別徴収」です。普通徴収とは、税金の納付先である市区町村から納税者宛てに郵送される納税通知書を使用して住民税を納める方法をいいます。一方、特別徴収とは、給料からの天引きにより住民税を納付する方法です。会社が毎月、従業員の給料から住民税を徴収し、従業員に代わって市区町村に納めます。一部、特別徴収を採用している派遣会社もあるものの、一般的には派遣社員の納付方法は自分で税金を納める普通徴収です。

正社員と違って派遣社員の場合、住民税を天引きされない理由は、会社が派遣社員の収入を把握しにくいからです。1つの会社で長期的な働き方をするケースが多い正社員に対して、派遣社員は働く期間や働き方に個人差が見られやすく、収入差が出やすい傾向にあります。そのため、所得税を計算する際のもととなる各派遣社員の所得金額を派遣会社が市区町村に報告し、市区町村が納税者個々に税金を請求するシステムとなっているのです。

自分で何もしなくても住民税が差し引かれる特別徴収とは異なり、普通徴収は納め忘れに注意しなければなりません。納期限までに納めないと督促状が届き、通常納める税額に延滞金も加算されて請求されます。延滞金が加算されるのは納期限翌日からです。督促状が発した日から10日を経過しても、まだすべてを納め終わっていなかった場合には、預貯金や給与、家などの財産が差し押さえられることもあります。

3.年末調整と確定申告

税金の扱いが正社員とは異なり、働き方が人によって異なりやすい派遣社員にとって、自分は年末調整や確定申告が必要かどうかは迷いやすいポイントです。そこで、ここでは、派遣社員の年末調整と確定申告について解説します。

3-1.年末調整

概算額で納めていた所得税を正しい金額で納付できるように調整するために行われるのが年末調整です。毎年末に、その年に納めるべき正しい税金を計算し、先払いしていた税金の総額のほうが多ければ差額が還付され、少なかった場合には追加徴収が行われます。ただし、年末調整はすべての方が対象となるものではありません。原則、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出している方が対象です。さらに、年末調整は12月に行うケースと年の途中で行うケースがあり、どのタイミングで行うかによっても対象者は異なります。

たとえば、12月の給与を受けるまで就業していた場合には年末調整の対象です。一方、12月の給与を受け取る前の11月時点で勤務していなかった場合では、それまで登録していた派遣会社で年末調整は行われません。また、年の途中でほかの派遣会社に登録を変えて働いた場合、年末調整を行うのは12月時点で登録している派遣会社です。一方、12月時点で複数の派遣会社に就業していた場合は、収入が多かったほうの派遣会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、提出した派遣会社で年末調整を行います。

就業先で年末調整をしない方は、自分で確定申告をすることになります。年末調整も確定申告も行わない場合には、戻ってくるはずの還付金を受け取れなかったり、追加で納めるべき税金がある場合には無申告でペナルティの対象となったりすることもあるため、気を付けなければなりません。

3-2.確定申告が必要になる場合

自分で確定申告を行わなければならないケースは、就業先で年末調整が行われないとき以外に次のような場合があります。たとえば、所得税の対象となる給与が総額で2000万円を超える場合です。また、派遣から得る収入以外に副業として20万円を超える所得がある方も確定申告が必要となります。

さらに、課税を受ける年内に労働に対する賃金を「給与」としてではなく「報酬」として受け、支払調書が発行されたことがある場合も確定申告の手続きが求められます。そのほか、所得控除に該当する場合には、確定申告を行うことで還付を受けられる可能性があります。所得控除の対象となるのは、たとえば、医療費や住宅ローン、寄附金などにおいて一定の要件を満たしている場合です。

3-3.確定申告の手順

確定申告を行う場合、まず、必要となる書類を準備し、確定申告書を作成します。準備する書類は1年間に就業した分すべての源泉徴収票の原本と、控除を受ける場合には控除対象となることを証明できる書類などです。控除対象の証明書類とは、社会保険料や生命保険料、地震保険料などの控除証明書、医療費の領収書、寄附金の受領書などが該当します。住宅ローン控除を受ける場合には、金融機関が発行する契約書や契約の詳細が記載されている明細書などを提出しましょう。

確定申告書は「申告書A」と「申告書B」の2種類があり、「申告書B」は所得の種類を問わず使用できる申告書です。一方、「申告書A」は給与所得や雑所得、総合課税の配当所得、一時所得のみの方が使用できます。いずれの申告書も、各地の税務署で配布されるほか、国税庁のホームページからダウンロードして入手することも可能です。

必要書類がすべて手元に揃い、申告書の作成ができたら、税務署に提出して申告します。所得のあった年の翌年2月16日から3月15日の間に申告手続きを行う決まりになっています。提出方法は3つあります。1つ目が所轄の税務署への送付、2つ目が所轄の税務署の窓口に持参、3つ目がインターネットを利用したe-Taxによる申告です。提出する際には、書類や申告書のほかに、申告者名義の預金通帳かキャッシュカード、印鑑、マイナンバーカードかそれに代わるものなども必要になります。さらに、前年も確定申告をしている場合には昨年分の申告書を用意するのも忘れないようにしましょう。

申告が受け付けられたら、納付手続きを行います。納付手続きの方法は4つあり、自分で決められる選択式です。具体的には、金融機関や税務署の窓口での現金納付、振替納税、クレジットカード納付、e-Tax納付から選べます。還付金がある場合には、申告書に記載した金融機関の口座に後日、該当する金額が振り込まれます。

4.扶養控除内で働く場合

働き方のひとつとして扶養控除内で働くスタイルもあります。扶養控除とは一定の条件を満たす扶養親族がいる場合に受けられる控除です。ただし、扶養控除の対象となる条件は、税金と社会保険で異なっています。扶養控除内で働きたいなら、それぞれの条件をきちんと把握しておきましょう。

4-1.税金

派遣社員が納めなければならない主な税金に所得税と住民税があります。所得税も住民税も扶養控除の適用の判断目安となるのが扶養親族の所得額や年齢、納税者との関係、同居の有無などです。扶養親族の所得額は年間の合計金額が38万円以下(給与所得だけの場合は収入が103万円以下)であること、年齢は課税対象となる年の12月31日時点で16歳以上であることが条件とされています。納税者との関係については、配偶者のほか6親等内の血族と3親等内の姻族は控除対象です。また、70歳以上の扶養親族は原則同居していることも求められますが、生計を一にしている場合には同居していなくても控除を受けられます。

ただし、所得税と住民税とでは、受けられる扶養控除額と、扶養控除が適用される年度に違いがあるため注意しなければなりません。まず、扶養控除額については、扶養親族の状況により金額が異なりますが、総じて所得税より住民税の控除額のほうが低い設定です。たとえば、23~69歳の一般の控除対象扶養親族の場合、所得税の控除額は38万円ですが、住民税の控除額は33万円になっています。一方、扶養控除が適用される年度については、所得税の場合、所得を受ける年に適用されますが、住民税の控除が適用されるのは所得を受ける年の前年です。

4-2.社会保険

社会保険に対する控除の判断目安となるのは、税金と同じく、扶養親族の所得額と年齢、被保険者との関係、同居の有無などです。ただし、それぞれの具体的な条件は税金と異なっているため注意しなければなりません。

まず、扶養親族の年間の収入は130万円未満であることが基本の条件です。被扶養者が60歳以上だと年間収入が180万円未満でも適用となります。これに加えて、同居している場合には被保険者の年収の半分未満の収入であること、別居している場合には被保険者からの仕送り額を超えない収入でなければなりません。年齢は、別居している扶養親族の場合、75歳未満の必要があります。扶養する者との関係においては、配偶者以外だと3親等内の親族が対象です。同居に関しては、配偶者や子ども、弟や妹、両親、祖父母は一緒に住んでいなくても適用されますが、そのほかの親族は原則同居していることが条件とされています。

損をしないで派遣社員として働くためにも税金の知識は正しく持っておこう

働き方が多様化するなか、どのように働くかは自分で選ぶことができますが、働き方によって納税の方法などに違いがあるため注意が必要です。派遣社員は住民税を自分で納める普通徴収であることが一般的で、個々の状況により年末調整や確定申告の必要性や、控除額が異なっています。還付金の受け取り漏れや、無申告や納税忘れなどによるペナルティを避けるためにも税金の知識は正しく持っておくようにしましょう。