2020.8.18

特定派遣の廃止とは?廃止の理由や、派遣会社の対応を解説

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派遣という雇用形態には、かつて特定派遣と呼ばれるものがありました。しかし、特定派遣には問題点があることが分かり、廃止されることとなったのです。この記事では、まず、特定派遣とは何か、通常の派遣とどう違うのかについて説明します。そして、特定派遣がなぜ廃止されたのか、その際派遣会社はどのような対応をとったのかについても解説していきます。

1.特定派遣とは

2015年に派遣法が改正するまでは、派遣の形態として「一般派遣」と「特定派遣」の2つがありました。同じ「派遣」の文字が使われていても、両者には明確な違いがあります。まず、最も大きな違いは派遣元・労働者・派遣先の三者の契約関係です。一般派遣の場合は、労働者は派遣元企業に派遣労働者として登録し、希望条件やスキルに合った仕事を紹介され、派遣先との合意ができればその時点で雇用契約を結び派遣先企業にて就業を開始します。派遣元企業にはあくまで人材として登録しているだけなので、給与が支払われるのは派遣先で就業している間のみです。派遣先での契約が終了すれば、次の派遣先が決まるまでの期間は無給となり、福利厚生も受けられなくなります。このため、厚生年金や健康保険にブランクができたり、有給休暇がリセットされたりする点がデメリットです。

一方、特定派遣の場合は、労働者は派遣元企業と「期間の定めのない雇用」という形で雇用契約を締結します。その後、労働力を必要とする企業に派遣され、そこで派遣社員として働くのです。特定派遣の派遣社員は、一般派遣と違い、登録型ではなく常用型雇用契約を締結しているので、派遣先企業での就業が終了しても、派遣元企業の社員として雇われている形になり、その間給与も支払われます。社会保険も引き続き加入することとなり、有給休暇も失われません。

次に、派遣事業のやり方にも違いがあります。一般派遣事業の場合、事業を始めるには国からの許可が必要です。許可を得るためには、資産要件など所定の条件をクリアしなければなりません。これに対し、特定派遣事業の場合は届出制です。派遣労働者を事実上期間の定めなく雇用していれば、国に届出をするだけで事業を開始できます。したがって、許可制である一般派遣事業よりも特定派遣事業のほうが事業参入しやすいという事情があったのです。

一般派遣事業に対し、なぜ、特定派遣事業のような、労働者にとって無期で雇用してくれる派遣形態で事業参入もしやすい派遣形態が存在したかというと、IT産業のような高度なスキルを必要とする分野に多くの労働者が必要だったからです。2000年頃からぞくぞくと事業を開始したIT企業では、必要な時期に必要なスキルを持ったスタッフに来てもらい、業務を進めてもらうことを求めていました。それだけのスキルを持った労働者を簡単に集め、すぐに派遣できるようにと制度化されたのが特定派遣なのです。

派遣先のIT企業にとっても、優秀で高度なスキルや資格を持った人材を、直接雇用ではなく派遣という形で就業させることにより、人件費の削減というメリットがありました。また、派遣労働者にとっても、一般派遣のように仕事が紹介されない間は無給というリスクがなく、さらに自身のスキルが生かせるという点で「安定して働きやすそうだ」とのイメージを持ちやすかったといえるでしょう。

1-1.特定派遣廃止

派遣法の改正により、2015年9月30日をもって特定派遣事業は廃止され、許可制での一般派遣事業のみとなりました。もっとも、ある日突然特定派遣事業がなくなってしまうとそれまで特定派遣事業を行っていた企業や特定派遣として働いていた労働者に対して混乱を招きます。そこで、経過措置として、2018年9月29日までは国に届出をすることで特定派遣事業を継続できることとしました。その後、同年9月30日以降はいっさい特定派遣事業が認められなくなったのです。

特定派遣が廃止されると、特定派遣労働者は就業の機会が奪われないよう対応に追われることとなります。具体的には、まず、派遣先企業に対し直接雇用契約を締結してもらえるかどうかを相談するケースが多くありました。直接雇用を断られた場合は、一般派遣事業を行っている別の派遣会社に転籍することで引き続き同じ派遣先で就業するか、新たな就業先を紹介してもらうこととなったのです。その他の対応としては、派遣契約ではなく請負契約という形で雇用を継続するケースも見られました。

1-2.特定派遣はなぜ廃止になったのか

特定派遣が廃止された背景には、派遣労働者の立場が不安定になりがちであったことが挙げられます。特定派遣は、一般派遣と違って期間の定めのない雇用となるため、一見すると安定しているようにみえます。しかし、実際のところ、「期間の定めのない」といっても必ずしも正社員として雇用しなければならないわけではなく、派遣元企業によっては契約社員や準社員といった雇用形態で派遣労働者を雇用するところも多くありました。このことから、労働者は不安定な立場のまま働かなくてはならなかったのです。

また、特定派遣事業の場合、国に届出をしさえすれば厳しい要件をクリアせずとも事業が開始できることもあり、資力の低い企業が派遣事業を行うケースがありました。これにより、ひとたび業績が悪化すると、特定派遣労働者への給与支払いをせずに人員整理と称して解雇する会社もあったのです。このように、特定派遣は、本来であれば労働者にとって安定した働き方ができる雇用形態のはずが、実情は労働者を不安定な立場に陥らせてしまう点が問題として明るみに出たのです。こうした状況の中で、特定派遣は廃止が検討されるようになったのです。

2.特定派遣廃止による懸念点だったこと

派遣労働者の雇用安定を維持するために廃止された特定派遣ですが、廃止したことにより懸念点も浮上しました。それが「偽装請負」のまん延です。偽装請負とは、契約上は請負契約として労働者を企業に働きに行かせるものの、実態は請負発注者側が労働者に対し指揮命令するという違法な派遣状態のことをいいます。請負契約というのは本来、派遣のように「役務の提供」をするのではなく、あくまで「仕事の完成」を提供しそれに対し発注者側が対価を支払うという契約です。したがって、労働者は自身と自身が雇われている会社(この場合は派遣元の会社)のノウハウに従って仕事を完成させることが求められるため、発注者側が労働者に指揮命令をすることは違法となります。

派遣契約のままであれば、「指揮命令系統は派遣先企業」であり「雇用元は派遣元企業」であることが明確ですが、表面上だけ請負契約としてしまうと、指揮命令者や責任の所在があいまいになり、労働者は不安定な立場に置かれることとなるのです。それにもかかわらず、特定派遣事業を行っていた企業もその受け入れ先も、廃止された特定派遣を続けていると思われないように表向きは請負契約とし、実態は偽装請負の形で労働者を働かせていたのです。このことにより、労働者の労働環境や安全衛生面などの改善が放置状態となり、労働者側に過大な負担を負わせる結果となりました。

しかし、特定派遣契約から正規の請負契約へと適法に切り替えればよいかというと、問題はそう単純ではありません。請負契約への変更は、社内規則や業務マニュアルの改訂、人員の配置変更など、多大なコストと手間がかかるものです。このことから、やむなく偽装請負をする企業が増加することが懸念されました。

3.特定派遣が廃止になったあとの派遣会社の対応

特定派遣が廃止されると、一般派遣事業の許可を国から得ていない企業は労働者派遣事業そのものが出来ないことになります。したがって、一般派遣事業許可の要件を満たせる企業は新たに許可申請をし、許可が下りれば一般派遣事業者として再スタートが切れますが、そうでない企業は淘汰されていくわけです。また、それまで特定派遣労働者を受け入れていた派遣先企業は、派遣元企業が一般派遣事業の許可を得たかどうかを確認する必要性が出ました。それは、一般派遣事業の許可を得ずに派遣事業を行う企業から労働者を受け入れてしまうと、派遣先企業は「労働契約申込みみなし制度」が適用され、場合によっては罰則の適用まで受ける可能性があるからです。

労働契約申込みみなし制度とは、派遣先企業が違法派遣を受け入れた時点で、派遣先企業が派遣労働者に対し直接雇用の申込みをしたとみなす制度です。たとえ派遣先企業側に直接雇用の意思がなかったとしても、申込みがあったとされます。この制度を無視し、労働者を派遣のまま就業させ続けたり、契約を終了したりすることは罰則の対象です。派遣先企業としては、そもそも新たに人材を直接雇用する余裕がないから、もしくは、短期間にさまざまなタイプの労働力が必要だったからなどの理由で派遣労働者を受け入れています。それにもかかわらず、労働契約申込みみなし制度により直接雇用しなければならないというのでは過大な負担がかかります。

また、無理やり直接雇用とされても、賃金が大幅に下がってしまうなど派遣労働者にとってもデメリットです。したがって、この制度の適用対象となることは避けなければなりません。そのためには、派遣元企業が一般派遣事業の許可を得ているかをあらかじめはっきり確認する必要があるのです。なお、派遣元企業の中には「許可を得た」と虚偽の申告をし、偽装請負をしようとする可能性もあります。これを防ぐため、許可を得たことを伝えてきた派遣元企業に対しては、一般派遣事業許可証の写しを提出してもらうなどの対応が必要です。もし、一般派遣事業の許可が得られず、派遣契約ができなくなったことから請負契約に切り替えてきた場合は、実態が偽装請負にならないようにしなければなりません。

特定派遣廃止は、派遣労働者の雇用安定を図るため必要だった

特定派遣は、一見したところ一般派遣よりも安定しているかのように思える雇用形態でした。しかし、実際は労働者が不安定な立場に置かれやすい形態であり、そのため特定派遣は廃止されることとなったのです。もっとも、廃止後も偽装請負などの問題が懸念されています。派遣事業を行ったり派遣労働者を受け入れたりする際は、就業実態が違法なものとならないよう注意する必要があります。