派遣禁止業務ってなに?その種類と理由とは
2020年4月1日から改正されることもあり、工場求人を探している方のなかには、労働者派遣法について興味を持っている方もいるでしょう。実は労働者派遣法には、もともと派遣業務の対象となる仕事が指定されているのです。もしも、禁止されている仕事で派遣業務を行ってしまうと、罰則の対象になります。この記事では、派遣禁止業務の内容について詳しく解説していきます。
派遣禁止業務とは、派遣労働者が働いてはいけない仕事のことです。派遣労働者は派遣業法に基づいて仕事をしていますが、そのなかには「派遣労働者が働いていい仕事」が明記されています。それとは別に「派遣が働いてはいけない仕事」が派遣禁止業務として明記されているのです。派遣法は1986年にできた比較的新しい法律で、当時急速に普及してきた人材派遣サービスによって弱い立場になってしまった労働者を守るために制定されました。主な目的は、雇用主側の都合で契約を打ち切れるという、派遣労働者の雇用の不安定さを解消することです。また、それまで「業務請負」という形で行われていた仕事との区別を明確にすることも目的にしています。
結果的に、派遣業務で働ける仕事とそうでない仕事のすみわけが行われたのです。派遣法が制定された当初は、まだ一般社会で派遣という働き方が普及しつつあった段階なので、13の業務に限り認められていました。しかし、その後「自由な働き方ができる」という労働者側のメリットと「必要に応じて雇用できる」という経営者側のメリットが合致し、世間的に普及が拡大していきます。派遣という働き方の普及に伴ってさまざまな職種でニーズは高まり、結果的に派遣労働者が働ける仕事の幅は広がっているのが現状です。
派遣法は比較的新しい法律ということもあり、時代に合わせた働き方を実現するために、幾度も改正が実施されています。特にネットワーク環境の発達やグローバル経済の影響を受けて現代の労働者の働き方は多様化しており、2020年4月からは「同一労働、同一賃金」をベースにした法改正が実施されます。派遣法には、派遣禁止業務以外にも「労働者派遣の期間制限」や「一般派遣と特定派遣」など、重要な条文が規定されているので概要だけでも理解しておくとよいでしょう。
派遣禁止業務として規定されているのは「港湾業務」「建設業務」「警備業務」「医療関連業務」「士業務」です。港湾業務に該当するのは「船内での貨物の梱包や包装」「船からの荷物の積み下ろし」など、港湾で行われている運送業務全般です。船内や沿岸の荷役だけでなく「いかだ運送」や「はしけ運送」も該当するうえ、検量や鑑定といった運送に付随する業務も含まれるので注意しなければいけません。荷物を置く場所の清掃でさえ、禁止業務に含まれます。かなり幅広い範囲が対象になっているので、港湾部での派遣業務は業務内容の詳細を把握してからにしましょう。
注意する点としては、基本的に禁止業務に該当するのは「湾岸部で運送業務に携わること」です。たとえ、船舶に直接関係ない荷物であっても、湾岸部にある倉庫に勤務することは派遣禁止業務に抵触するおそれがあります。運送関連で働く場合は、倉庫が湾岸部にあるかどうかに注意したほうがよいでしょう。
港湾業務が禁止されている理由は、すでに「湾岸労働法」によって『港湾労働者派遣制度』が制定されているからです。もともと港湾業務は景気の波に左右されることが多く、雇用が不安定な状態にありました。そのため、港湾運送業者ならではの人材雇用法があるため、派遣業法の適用外となっているというわけです。
派遣禁止業務に該当する建設業務には「資材の組み立てや運搬」はもちろん「建材の加工や塗装」などが含まれます。港湾業務と同様に現場での作業だけでなく「資材の配送手続きや撤去」「現場の清掃」など、建設に付随する業務も含まれる点には注意が必要です。ただし、品質管理や工程管理といった管理業務については派遣禁止業務の対象にはなっていない点や、工事の規模や建設する工作物の用途にも制限がないことが特徴です。
建設業務が禁止されている理由も、港湾業務と同様に別の法律や決まりがあることが関係しています。その法律や決まりとは「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」や「建設業務有料紹介事業」などです。建設業界は、業界の仕組みによって下請けが何重にも発生するケースがよくあります。その際には、指揮する側が労働者の雇用においても責任を持つべきだと考えられているのが特徴です。しかし、派遣労働者は、基本的に派遣会社側にも指揮をする権利があると考えられているので、指揮権が重複してしまいます。すると、現場が混乱するおそれがあるため、派遣労働者が働くことを禁止しているというわけです。
警備業務も、派遣業法によって基本的にはほとんどのケースで働くことはできません。禁止されている警備業務には「施設内における巡回」はもちろん「施設の入り口での荷物検査」なども含まれます。また、警備員の仕事として「金銭などの輸送」もありますが、そうした業務も禁止されています。そのほかにも、並んでいる顧客の誘導も警備業に該当する可能性があるので、イベントスタッフなどを担当する際には注意しなければいけません。
警備業務が禁止されている理由も「警備業法」によって独自の規定がされているからです。警備業は現場の状況に応じて臨機応変に行動しなければいけないケースも多いため、指揮権が派遣元にある派遣職員では不都合が生じるケースが多いと言えます。そのため、警備業務は請負業務として指揮権が現場の会社にあることが明記されており、派遣禁止業務に指定されているというわけです。
派遣禁止業務に規定されているのは、そのほかにも「医療関連業務」や「士業務」があります。医療関連業務に定められているのは、医師や看護師などです。助産師や薬剤師、栄養士といった関連する仕事も含まれます。一方、士業務の派遣禁止業務に含まれるのは、税理士や弁護士、土地家屋調査士などです。基本的には世間一般的にいわれる「士業全般」だと考えておいて問題ありません。
医療関連の派遣が禁止されている理由は「人命にかかわるから」です。医療の現場では意思疎通がしっかりできていないといけません。そのため、適切な人材を雇うように雇用主は努める必要があり、誰を派遣するか派遣元が決める派遣業務との相性は悪いです。万が一派遣業務が滞るようなことがあれば患者の命にかかわるので、派遣禁止業務に指定されています。士業が禁止されているのは「もともと独立性が高い仕事」だからです。士業は仕事の性質上、資格保有者個人が判断して業務をこなしていく形態が多いです。そのため、指揮権は自分にあるような状態になっています。つまり、指揮権が派遣元の会社にある派遣という働き方には合致していないとみなされ、派遣禁止業務に指定されているというわけです。
派遣禁止業務にはいくつかの例外があります。1つ目の例外は「紹介予定派遣」です。紹介予定派遣とは、正社員になることを前提にして働く方法で、最長6カ月の期間にわたって派遣社員として働きます。派遣期間終了後、派遣先の企業と本人が合意することで、正社員として登用してもらえます。紹介予定派遣の場合、派遣期間終了後は雇用してもらえることが前提であるため単なる派遣と同じ扱いとはならず、例外的に派遣禁止業務でも働けるようになっています。
2つ目の例外は「産前産後休業・育児休業・介護休業の業務」です。産前産後や育児休業などは、一定期間だけの人手不足が発生してしまいます。しかし、その都度社員を採用していると、雇用元の企業が支払う人件費が増大してしまい、経営が苦しくなってしまうおそれがあります。そのため、産前産後休業・育児休業・介護休業については、例外的に派遣禁止業務でも派遣社員が働くことが認められているのです。
3つ目の例外は、医師の業務で「就業場所が離島などにある場合」です。離島などのへき地にある地域医療は、勤務を希望する医師不足に悩んでいるケースもよくあります。地域医療を守るためには、へき地であっても医師の確保が重要ですが、実際には収支の関係もあるので簡単ではありません。そこで、地域の状況に応じて、医師の派遣を認めることで柔軟な対応ができるように配慮されています。
4つ目の例外は、士業の一部業務についてです。税理士や公認会計士、行政書士などといった資格を所持している場合、一定要件を満たせば派遣として働くことができます。たとえば、公認会計士では「派遣元が監査法人以外のもので、派遣される公認会計士が公認会計士法第2条第1項に規定する業務(監査証明業務)を行わない場合」です。
派遣労働者を禁止業務で働かせた場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる」という規定があります。さらに、悪質である場合には、事業をするうえで必要な許可の取り消しや事業停止命令、改善命令などの対象になることもあります。ここでのポイントは、あくまでも「働かせた事業者側」に罰則が適用されるという点です。労働者側に適用される罰則ではないという点は覚えておきましょう。
すでに派遣労働者として働いている方のなかには「禁止業務に該当する仕事に異動を命じられたらどうしたらいいのか」といった疑問を持つ方もいるかもしれません。たとえば、事務員として派遣されたにもかかわらず、現場の事情によって警備業務も兼ねることになったケースです。結論としては、禁止業務に該当する仕事をすることは、一部の例外を除いて認められません。
そのため、禁止業務に異動するような命令を企業が下すことは違法になります。ただし、実際には禁止業務に派遣されたり、途中で異動を命じられたりして派遣会社が処罰を受けるケースがないわけではありません。労働者側に罰則はないものの、余計なトラブルに巻き込まれないように禁止業務で働くことは拒否する姿勢が大切です。
派遣禁止業務には「港湾業務」「建設業務」「警備業務」「医療関連業務」や「士業務」があります。一部には例外があるものの、派遣労働者が禁止業務で働くと派遣会社が罰則の対象になるケースもあります。派遣労働者には罰金などの罰則が科されることはないものの、余計な心配をしないためにも、働く前には「どのような仕事をするのか」をよく確認しておきましょう。