【前編】いま話題の「ICT施工」って?ICT施工で建設業界が大きく変わる?ドローンの利用などあらゆる工事が正確に行える!
ドローンによる測量やコンピュータを積んだICT建機など。他の業界と同じように建設業界でも最新のテクノロジーを使う動きが進んでいます。その代表的なものが「ICT施工」です。そもそもICT施工とはなんなのでしょうか。ICT施工が広まることで、建設業界や工事はどう変化するのでしょうか。株式会社PCT(以下、PCT)でICT施工講習の責任者をされている足立真哉さんに聞きました。
――まずはICT施工について教えてください。
「IT」という言葉はよく聞きますよね。情報を意味する「Information(インフォメーション)」 の頭文字の「I」と、技術を意味する「Technology(テクノロジー)」の頭文字の「T」がくっついた単語で、情報技術のことです。身近なところで例えると、パソコンやスマホを使ってなにかをすることですね。
ICTは、このITに「Communication(コミュニケーション)」を加えたものです。こちらは情報と技術に加えて、人とのつながりを重視しています。人とインターネットや、人と人とが繋がる技術のことをいいます。友だちとチャットでやり取りしたりすることに近いイメージです。
それでICT施工とは何か、ですよね。今お話した情報・技術・通信といったICTを、建設工事での施工に使いましょう、というものです。具体的には「測量」「設計」「施工」「検査」「維持管理」といった建設工事のそれぞれの業務をスムーズにしたり、現場で働く人たちの安全性と生産性を高める取り組みで、日本では5年くらい前から行われています。
これまでの建設工事では、長い間業界で働いてきたベテランの方たちの経験や勘で仕事を進めているところがありました。つまり、特定の人にしかできない仕事ともいえます。ところがICT施工を導入すると、ベテランでなくても難しい工事ができるようになります。
そうなると建設業界はどうなるのでしょうか。若い人や女性など、これまで建設業界とはあまりかかわることがなかった人たちにも働いてもらえるようになります。つまりICT施工が広まることで人手が足りない建設業界を再び元気にすることが期待できます。
――ICT建機とICT施工の違いを教えてください。
ICT建機は、従来の重機にコンピュータを搭載した建機のようなものです。そしてそのコンピュータにドローンが撮影したデータから作られた3D設計データという情報を送信します。するとICT建機のコンピュータが、そのデータをもとにそれまでベテランの勘で行っていた難しい操作を半分自動で行ってくれます。すでにユンボなどのICT建機が作られています。半分自動というのは、ICT建機は無人運転ではなく基本的な操作は人が行うからです。
山の斜面などを整える法面の施工がいい例です。従来の施工では、経験豊富なオペレーターが目で法面を見てユンボを操作しながら、なだらかになるよう整えていました。建設業界で働いている人であれば知っていると思いますが、法面の施工は難しく、かなりの技術力が必要です。でもICT建機を使えば、このような難しい施工を誰でも簡単に行うことが可能になります。
――なるほど。ICT建機を使えば、誰でも簡単に高いレベルの施工ができるようになるんですね。そうなると工事がスムーズに進みますね。
ええ。では今度はICT施工について説明します。
ICT施工は、ICT建機が行う施工だけではなく工事の全ての行程でICTを活用することを言います。具体的には次の5つの工程です。
①起工測量
②設計施工計画
③施工
④検査
⑤データ納品
例えば①の「起工測量」では、従来のようにオートレベルをセットして人が肉眼で計測するのではなくドローンを使います。ドローンを使うメリットは大きく2つあります。
1つ目は人が肉眼で測量するよりも簡単なことです。人による測量は経験や技量が必要ですが、ドローン測量の場合は誰でも手軽に行えます。もちろんドローンの操作は必要ですが、撮影さえ行えばあとは専用ソフトが自動で正確な測量を行ってくれますからね。
もうひとつは工事の測量と直接関係はありませんが、工事現場で出る大量の土を排出するためダンプが日々往来していますよね。この台数も今まではベテランの勘で手配していました。どれくらいの土があるのかを計測することができなかったからです。
そこにICTアプリの登場です。手持ちのスマホで土山の周りを回れば、正確な土の量を専用ソフトが自動で瞬時に計測します。ダンプの手配が正確になるため工事がスムーズに進むうえに、工事費用の削減にも繋がります。
――PCTではどのようなICT講習が受けられるのですか?
今は3つのオリジナルプログラムを茨城県ひたちなか市と香川県善通寺市にあるICT施工専用の教習所で受講できます。ちなみにこの3つのICT施工講習を教習所が正式なプログラムとして実地しているのは現時点ではPCTだけです。
せっかくなので、3つのプログラムを紹介しますね。
いま私が説明してきたような内容の講習になります。ICT建機についてやICT施工が広まることで建設現場はどう変わるのか、ICT施工を導入することでどのようメリットがあるのかなどを学びます。ICT施工を使った実際の工事の紹介も行います。
ICT施工の内容を知ってもらうための講習なので、現場の方はもちろんですが、ICT施工を検討している建設会社の経営者や管理職の人向けの講座になります。もちろん最新のICT建機に乗ってもらいますし、ドローンによる測量も体験してもらいます。
ドローンによる測量を考えている方に向けた「UAV(ドローン)写真測量講習」です。先ほど紹介したプロセスの①起工測量で、ドローンを使った写真測量を学ぶことができます。
PCTは常に現場で使える内容の講習を意識しているので、基本的な知識や技術に加えて実際に写真を納品する内容も学べるのが特徴です。そのため、既にドローン測量をしているけれどソフトウェアの使い方に苦労している、あるいは仕事に活かしきれていない方などにもおすすめの講習です。
ICT建機を動かすには、3D設計データが必要だと説明しましたよね。言い換えると、3D設計データが不足していたり誤っているなどの問題がある場合、ICT建機は思ったように動いてくれません。つまりICT施工において、3D設計データは重要なポイントです。
このデータ作成に必要なソフトウェアの使い方などを学んでもらいます。また3D設計データがICT施工全体でどのように活かされているのか、ICT建機だけでなく他のICTツールへの活用や応用なども学べる講習です。
――今後、講習を増やす予定はありますか。
はい。2021年に入ったら、すぐに次の2つの講習を始める予定です。
ICT建機の利用を考えている会社や、既にICT建機を運転しているオペレーター向けの講習です。ICT建機の特徴や動く仕組み、使用環境といった基本的な知識からトラブル発生時の対応まで学ぶことができます。
講習では実際にICT建機に乗車し、操作はもちろん、ICT建機への3D設計データの取り込みなども体験もしてもらいます。
平面図をもとにしたICT建機用の3D設計データ作成など、従来の工事方法からICT施工への変化を実際に感じてもらう「実践的」な講習です。
ICT施工が当たり前に行われる未来の現場をコンピュータのなかに作り、その状態でICT施工を行うと、これまでと比較してどれくらい工事がスムーズになるのかを体感してもらおうと考えています。
後編ではICT施工を広めるためにはどうすればいいのか。広まった未来はどうなっているのかなどについて紹介します。