衛生管理者とは?取得メリット・受験資格や勉強時間の目安を紹介
会社が成長していくためには、労働者が健康に働き続けられる環境が欠かせません。衛生管理者は、労働者に健康診断を受けさせたり、職場の見回りをして作業環境を改善したりといった、労働者の健康管理を一手に担う重要な存在です。今回は、衛生管理者の仕事内容、資格の種類、取得するメリットについて解説。試験の概要や勉強時間の目安も一緒にご紹介します!
【目次】
■衛生管理者の役割は労働者の健康を守ること
・衛生管理者は選任の義務がある
・衛生管理者になる条件を解説
・衛生管理者を置かないと罰則を受ける
・衛生管理者は昇進・転職に有利!
■第一種衛生管理者と第二種衛生管理者の違い
■衛生管理者の試験は月に1回以上開催
・試験科目・試験時間
・合格基準・合格率
・【難しい?】衛生管理者試験の合格率
■【注意】合格後は必ず各種手続きをすること
■試験合格に必要な勉強時間は多くはない
■衛生管理者はキャリアアップに活かせる!
衛生管理者とは、職場の衛生環境を保ち、労働者の健康を守るという役割を担っています。衛生管理者の仕事内容は、以下の通りです。
<衛生管理者の実務>
衛生管理者の仕事内容 | 詳細 |
---|---|
労働者の異常の発見と処置 | 健康に異常がある労働者を見つけるため、健康診断を促す・受診しやすい環境を整えます。また、健康悪化がみられる労働者に対するアドバイスや産業医面談のスケジュール管理も行います。 |
作業場の衛生面に関する調査 | 温度や湿度・換気状況・照明の明るさ・音や振動・ケガのしやすさ・化学物質の有無などを調べ、健康に悪影響を及ぼす環境になっていないかを調査します。 |
作業場の衛生面を改善する | 衛生面に関する調査結果をもとに、対策を講じます。例えば、照明の取り換え、空気清浄機の導入、分煙対策などです。また、雇用形態・部署・年代・性別・役職を問わず労働環境が整っているかどうか定期的に見直します。 |
労働衛生保護具(※)・救急用具の点検・整備 | 労働者の健康を守る労働衛生防護具や応急手当用の救急用具を点検し、いつでも使える状態に保ちます。 |
労働者に対する衛生教育 | 健康に関する情報共有や啓発活動を行います。 |
従業員の健康に関する統計の作成 | 従業員のケガ・病気と、それに伴う欠勤・配置転換・死亡に関する統計を作成します。 |
衛生日誌や記録の作成 | 事業場の健康関連の出来事について記録を取る業務です。労働者の病欠・事故・疾病の発生、健康診断の実施状況などを記録します。 |
定期的な作業場の巡視 | 少なくとも毎週1回は作業場を巡回し、衛生上問題のある設備・作業方法の見直しを行います。 |
(※)労働衛生保護具:健康を守るために着用する保護具の総称。呼吸用保護具・防護具手袋・保護メガネなど。
このように衛生管理者は、労働者が安全に作業できるよう目を光らせ、安全・健康に関する記録を取り、労働者への啓発活動も行います。
事業場に、常に50人以上の労働者がいる場合は、衛生管理者を必ず選ばなくてはいけません。事業場の労働者数に対して必要な衛生管理者数は、このようになっています。
事業場の労働者数 | 衛生管理者の選任数 |
---|---|
50~200人 | 1人以上 |
201~500人 | 2人以上 |
501~1,000人 | 3人以上 |
1,001~2,000人 | 4人以上 |
2,001~3,000人 | 5人以上 |
3,001人以上 | 6人以上 |
「企業」ではなく、「事業場」という点がポイント。支店・支社は1事業場として扱われます。また、衛生管理者は原則としてその事業場に専属しなければならず、事業場の掛け持ちは認められていません。
なお、衛生管理者を2人以上選ぶ場合で、衛生管理者の中に「労働衛生コンサルタント」がいるときは、労働衛生コンサルタントのうち1人は専属でなくても問題ありません。
出典:厚生労働省 労働基準 よくある質問 衛生管理者について教えて下さい。
衛生管理者には受験資格があり、誰でも受けられるわけではありません。衛生管理者になるためには実務経験が不可欠です。 また、学歴によって必要な実務経験年数が異なります。
大まかにいえば、以下のうちいずれかの条件を満たす方が衛生管理者になれます。
- 最終学歴が大学・短期大学・高等専門学校の場合、実務経験1年以上
- 最終学歴が中学・高校の場合、実務経験3年以上
- 実務経験10年以上
実務経験 として認定される業務は、次の13種類です。
- 健康診断の実施に必要な事項・結果の処理
- 作業環境の測定・調査
- 作業条件・施設などの衛生上の改善
- 労働衛生保護具・救急用具等の点検・整備
- 衛生教育の企画・実施
- 労働衛生の統計作成
- 看護師又は准看護師の業務
- 労働衛生関係の「作業主任者」としての職務
- 労働衛生関係の試験・研究に従事
- 自衛隊の衛生担当者・衛生隊員の業務
- 保健衛生に関する業務
- 保健所職員のうち、試験・研究に従事
- 建築物環境衛生管理技術者の業務
試験を受けるためには、これらの業務に対する実務経験を、所属する事業所の代表者(社長、人事部長、総務部長、工場長など)に証明してもらわなければいけません。
衛生管理者の受験申請をする際には、実務内容と代表者の署名を記した「事業者証明書」を作成し、受験申込時に添付します。
選任義務があるのに、衛生管理者を置かなかった場合は、労働安全衛生法違反として、50万円以下の罰金が科されます。衛生管理者の選任義務が発生してから「14日以内」に担当者を選び、所轄の労働基準監督署へ速やかに報告してください。
常に50人以上の労働者がいる職場には、衛生管理者が不可欠です。また、衛生管理者は支社・支店ごとに選ばなければなりません。
このような事情もあって、衛生管理者は企業から強く求められている人材といえます。会社からの指示で衛生管理者資格を取るのも珍しいことではなく、昇進・昇格に繋がることもあります。
就職や転職を目指す場合には、衛生管理者の資格を持っていることがアピールポイントとなるでしょう。
衛生管理者には、「第一種」と「第二種」という2種類の免許があります。第一種免許が必要となるのは、「特定業務(有害業務)」を行う事業場に衛生管理者を設置しなければならない場合です。
特定業務とは、労働安全衛生規則第13条 に記されている業務内容のこと。肉体に負荷がかかる業務、健康を害するおそれのある環境での業務、有害物を扱う業務などが該当します。
第一種は、「特定業務」を含むすべての業種に対応できます。 第一種衛生管理者については下記ページでも解説していますので、第一種衛生管理者についてもっと詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
第一種衛生管理者はすべての事業所で衛生管理者になれる国家資格
一方第二種は、建築業・製造業・電気業といった「有害業務」がある業種では、衛生管理者になれません。それ以外は、第一種・第二種ともに、業務範囲は基本的に同じです。
なお、第二種衛生管理者の詳細については下記ページでも解説しています。第二種衛生管理者に興味のある方はぜひご一読ください!
出典:労働安全衛生規則
衛生管理者の試験は、全国7ヶ所(※)にある「安全衛生技術センター 」で行われています。
どのセンターでも、月に1回以上は開催されていますが、受験者の多い関東・中部・近畿センターでは、月に5回以上試験が行われることもあります。
試験日・受験場所は地域によって異なるので、「安全衛生技術試験協会」の公式サイトで試験日程をチェックしてから受験申請をしましょう。
(※)安全衛生技術センターは、北海道恵庭市・宮城県岩沼市・千葉県市川市・愛知県東海市・兵庫県加古川市・広島県福山市・福岡県久留米市の7ヶ所にあります。
出典:第一種衛生管理者・第二種衛生管理者の試験日程|安全衛生技術試験教会
第一種・第二種ともに試験時間は3時間。「関係法令(労働基準法、労働安全衛生法)」「労働衛生」「労働生理」の3科目から出題されます。
資格区分 | 試験科目 | 問題数(配点) | |
---|---|---|---|
第一種衛生管理者 | 労働衛生 | ・有害業務に係るもの | 10問(80点) |
・有害業務に係るもの以外 | 7問(70点) | ||
関係法令 | ・有害業務に係るもの | 10問(80点) | |
・有害業務に係るもの以外 | 7問(70点) | ||
労働生理 | - | 10問(100点) | |
第二種衛生管理者 | 労働衛生(有害業務に係るものを除く) | - | 10問(100点) |
関係法令(有害業務に係るものを除く) | - | 10問(100点) | |
労働生理 | - | 10問(100点) |
合格基準は、科目ごとの正答率が40%以上・全体の正答率が60%以上です。
第二種の場合、「労働生理」で満点を取っても、「労働衛生」「関連法令」で60点を下回ったら不合格となります。
資格区分 | 合格率(令和3年度) | 受験者数 | 合格者数 |
---|---|---|---|
第一種衛生管理者 | 42.70% | 68,210 人 | 29,113人 |
第二種衛生管理者 | 49.70% | 36,057 人 | 17,922 人 |
第一種の合格率は45%前後、第二種は50%前後です。試験範囲が広く勉強するのは大変ですが、時間をかけて対策をしていけば十分合格できる資格といえるでしょう。
衛生管理者と似ている資格として「社会保険労務士(社労士)」があります。衛生管理者も社労士も、従業員の健康を守るという役割を担うという共通点があるため、この2つはダブルライセンスの相性がいいことで知られています。
衛生管理者は、労働安全衛生法・労働基準法を中心に学びます。 逆に社労士は、労働安全衛生法・労働基準法に加えて雇用保険法・健康保険法などさまざまな知識が求められます。
衛生管理者と共通点がありつつも、より幅広い知識を持つのが社労士といえるでしょう。社労士の知識があると、衛生管理者の勉強に有利です。また、衛生管理者を取得した後のステップアップとして社労士を目指すのもおすすめです。
試験に合格するだけでは、衛生管理者になることはできません。合格したことを確認したら、免許申請を行いましょう。
また、衛生管理者の資格は一度合格すれば失うことがありません。資格に有効期限はなく、一度取得したら更新試験・手続きは不要です。
生涯有効な資格なので、ブランクがある状態から社会復帰する場合でも、就職・転職の力になってくれます。
勉強時間の目安は、第一種100時間ほど、第二種60時間ほどかかります。衛生管理者は勉強時間が短く、比較的取りやすい資格といわれています。
例えば、労務・人事に関わる他の資格を見てみると、キャリアコンサルタントが100~200時間程度 、産業カウンセラーが200時間程度 、社会保険労務士が1,000時間程度 の勉強時間が必要です。
1日1時間の勉強時間を設けるなら、第一種なら3ヶ月前、第二種なら2ヶ月前を目安に勉強をスタートしましょう。ただし、この勉強時間はあくまでも目安です。
労務に関する予備知識がない場合はもっと時間がかかるかもしれないので、余裕をもって勉強を始めたほうが安心です。
衛生管理者は、職場で働く労働者が健康に働き続けられるように職場環境を整えるスペシャリスト。 職種・業態にかかわらず、50人以上の事業場では必須とされる資格であるため、企業からの需要が高い資格です。
また、衛生管理者は、コンプライアンスを守るうえで重要な存在であることから、企業が社会的信用と企業価値を得るために欠かせない人材でもあります。
昇進や転職・キャリアアップにも有利に働くかもしれません。実務経験が必要にはなりますが、きちんと勉強をして臨めば合格しやすいため、腕試しとしてチャレンジしてみるのもいいでしょう。
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