トヨタの生産方式に関して

~トヨタの品質管理~ 第6回

青木幹晴

1. トヨタは不要な在庫がないから品質管理も超簡単

 ロット生産をしていて、不良を発生させてしまった場合、大量発生させてしまうことが多くあります。そしてそれは最終工程まで流れていってしまい、最終品質チェックで見つけることになります。しかしその場合、不良発生後もそのワークに加工が加えられるため、廃却時の損害が大きくなってしまいます。また最終品質チェックで、万が一見逃してしまった場合は、大量の不良流失に繋がります。
 トヨタは工場のすべてが1個流しとなっています。1個流しの場合、作業者は1つの機械が加工した都度、品質チェック をします。またそれを次の作業者へ渡した場合、受け取った作業者の最初の作業は、そのワークの品質チェックです。そこでもし不良を発見したら、即それを発生させた前工程の作業者へその旨を告げて、作業を停止させ、不良発生原因を調査させます。
 このように不良は“現行犯”で見つけ出しアクションをとります。なぜなら“現行犯”でなければ、その発生原因の特定は難しくなるからです。
 これら一連の品質チェックはすべて標準作業票に盛り込まれており、その基準時間も設定されているため、作業者はそれを飛ばすことはできません。

2. ポカヨケ

 多くの製品のうち1つでも不良を出したら、その不良品を買わされたお客様はもう二度とこの会社の製品は買ってくれません。また自動車などは人の命を載せて走るもので、1つの不良が人命を奪うことになるかも知れません。したがって1つの不良も絶対に許されないのです。ということは全数チェックをすることが不可欠になります。しかしすべての工程で全数チェックをしていたら膨大なコスト増になってしまって、それが製品価格を押し上げて商品の競争力が低下してしまいます。そこでなんとか工数をかけずに全数検査と同じ効果を出せないか検討がなさました。そして努力の結果、ポカヨケが考案されました。
 ポカヨケとは工程内に設置されて、作業者のウッカリミス(ポカ)を避けて(ヨケ)くれる仕組みのことです。作業者は 標準作業通りの一連の作業をするだけでいいのです。このポカヨケにより工数を一切かけずに全数検査が可能になったため、価格競争力を減ずることなく、品質を格段に向上させることに成功したのです。
 ポカヨケには、「不良自体を発生させないポカヨケ(発生防止のポカヨケ)」と「不良は1つ作ってしまうが、それを発見しそれ以上の不良を発生させないポカヨケ(流出防止のポカヨケ)」の2種類に大別されます。
 またもう1つの分類としては、電気を使用するものとしないものに分けることができます。電気を使用するものは、毎日始業時にポカヨケの機能が有効に動くかどうかチェックしなければなりません。しかし電気を使用しないものはその必要がないので、まったく工数がかかりません。もちろん電気を使用しないポカヨケの方が優れているのは言うまでもありません。
 そしてこれらをまとめてポカヨケを評価し順位づけしてみました。
1番に優れたポカヨケ・・・【不良発生防止のポカヨケ:始業点検不要】
2番に優れたポカヨケ・・・【不良発生防止のポカヨケ:始業点検要】
3番に優れたポカヨケ・・・【不良流出防止のポカヨケ:始業点検不要】
4番に優れたポカヨケ・・・【不良流出防止のポカヨケ:始業点検要】
 会社の戦力は限られています。その戦力で最大の効果を出すために、順位づけするのです。そうすることで、少しでも優れたポカヨケを目指して会社全員が動くようになります。経営的見地からこのような順位づけは極めて重要です。
 さらにトヨタは重要品質工程には、不良発生のポカヨケと不良流出のポカヨケの両方を1つずつ設置することを要求しています。やはりここまで徹底して、初めて最高の品質を低いコストで追求できるのです。

それでは次にそれぞれのポカヨケの具体的事例を示します。

●1番に優れたポカヨケ・・・【不良発生防止のポカヨケ:始業点検不要】
 改善前
2つの同じ径の穴に、それに合う同じ太さの突起が挿入されました。したがって反対の向きでも挿入できてしまい、この場合は不良品になってしまいます。

 改善後
2つの穴の径を相違させ、正規方向で挿入した場合に突起がそれぞれの穴の径と合致するため正常に結合できます。こうなると反対に入れようとしても、両穴とも突起と穴の径が合わないため結合できません。
 改善前
正常方向のみならず、逆方向でも取り付いてしまいました。作業者には再三注意するように言ったのですが、どうしても逆向き装着がなくなりませんでした。

 改善後
図のような突起を付けて、逆向きに挿入しようとするとそれにワークの一部が当たって、それ以上進まないようにしました。

●2番に優れたポカヨケ・・・【不良発生防止のポカヨケ:始業点検要】
 改善前
インパクトによる6個のボルトを締めるのは、作業者の注意に依存していました。しかしどうしても締め忘れが発生してしまいました。

 改善後
① ワークの固定治具を電気的にクランプするようにしました。
② 作業者がボルトを1個インパクトで締め終わった都度ランプが点灯するようにしました(作業者が目でみて締め付け個数を把握できるようになりました)。
③ 6個締め終わらないと、固定治具がアンクランプしないようにしました(6個締める前に、6個締めたと勘違いしてワークを取り外そうとしても取り外せません)。

●3番に優れたポカヨケ・・・【不良流出防止のポカヨケ:始業点検不要】
 改善前
人がすべて目視でチェックしていました。

 改善後
逆向きに流れてきた場合、その形状のためにこの関門で落ちてしまうようにしました。

●4番に優れたポカヨケ・・・【不良流出防止のポカヨケ:始業点検要】
 改善前
人がすべて目視でチェックしていました。

 改善後
リミットスイッチをワークに接触させて電気的に有無を確認できるようにしました。

●4番に優れたポカヨケ・・・【不良流出防止のポカヨケ:始業点検要】

3. 自働化ラインにおいて抜取検査で全数検査と同じ効果を出す方法

 機械加工でのドリル、タップなどは、加工個数の増加に反比例して径穴が小さくなります。このように経時変化とともに、品質が変わっていく性質を利用すれば、加工した順番にワークが並んでいる、トレーサビリティ100%のラインにおいては、たとえば50番目のワークを品質チェックして合格ならば、それ以前の1番から49番に加工したものもすべて良品であるとみてよいわけです。次に100番目を検査して良品であれば、51番目から99番目も良品と認識できます。
 ところが150番目に検査したワークが不良ならば、加工順に並んでいるので149番から順番に遡ってチェックしていって不良発生初品を見つけ出すのです。その不良発生初品は101番目までの間に必ずあるはずです。このように経時変化で安定して品質が変化する場合は、抜取検査で全数検査と同じ効果が出せるのです。
 この事例でもお分かりいただけるように、1個流しはトラーサビリティ100%実現には不可欠なわけです。

4. 不良発生は問題解決の出発点

 トヨタの改善活動の対象は、経営のすべてに渡っています。したがってもちろんも「品質」も聖域ではなく、改善の対象なのです。ですからトヨタマンは常に「お金をかけずに品質の確保・向上ができないだろうか」と考えてきました。その結果、本当にお金をあまりかけずに向上させることができてしまいました。
 しかしいくらしっかりした品質管理の仕組みがあったとしても、加工不良、材料不良は常に発生します。そのためトヨタでは毎日終業前に、製造・品質の関係者全員が現場に集まって不良の現物を前にして、それがなぜ発生したのか、その原因を追求し対策を実施します。そしてそれらの結果は、このような用紙にまとめて関係者に配布され横展が行われます。