トヨタの生産方式に関して

~トヨタ生産方式への進化の歴史~ 第2回

青木幹晴

1. 平準化への課題

物造りの工程は、粗材工程、機械加工工程、組立工程の3つに大きく分類できます。それらの工程の内で、粗材工程と機械加工工程では多くの機械を使って、多種多様の品物を造らなければなりません。そのために型交換をしなければなりません。

 たとえばトヨタの連続式大型プレス機では、トヨタ生産方式に着手する前 は、型交換に3時間も要していました。こんな時間がかかったのでは型交換はなるべく少なくするしかありません。しかしそうなると1回ごとの生産の際には、 ものすごく多い数量を造ってストックしておかなければならなくなります。

 このような大ロット時代に、最終工程の組立工程から平準化が実施され、 かんばんが振り出されるようになりました。組立工程はほとんどが人の作業のため、平準化は簡単にできるわけです。しかし大ロットの在庫を持っている前工程 にとっては、後工程から多種多様なかんばんが振り出されても在庫から出荷するだけで、対応は極めて簡単で、痛くもかいくもありません。

 在庫が多い辛さはもの造りに携る者にとっては切実です。膨大な倉庫建屋 とその敷地が必要になります。品物を出し入れする要員やフォークリフトなどの運搬具が必要になります。コンピュータ管理するソフトウェアが必要になりま す。品物の保管期間が長くなりますので品質が劣化してしまいます。そのため出庫の際はもう一度品質検査をしなければなりません。こんなことをしていたら利益などすぐに飛んでしまいます。

 そこでトヨタは、組立工程から開始した「平準化」「かんばん」を阻害する最大の障壁を「長時間の型交換」と明確に認識し、その打開に全精力を集中させることにしました。
 型交換時間を短縮させるということで、その作業時間全体を短縮させることも 重要ですが、そう簡単にはできません。そこで着眼したのが、「とにかく機械を停める時間を低減させるだけでよい」ということでした。「これならば、極端な 話、型交換時間全体はまったく短縮しなくてもよいのですから、なんとかなりそうだ」という楽な気持ちで取り組みができたと思います。そこで考え出されたの が次のやり方です。
① 従来は機械を停めてから、型交換のすべての作業を行っていました(このようなに機械を停めて行う型交換作業を「内段取り」といいます)。

② 型交換作業のなかで、機械を停めなくても事前にできることをやってしまうことにした。そうすればその分だけ機械を停める時間が短くなりました。(このように事前にやってしまう型交換作業を「外段取り」といいます)。

③ 外段取りは専門チームを結成してやらすことにした。専門に行うことで稼働分析等が行われ、外段取り時間の短縮改善が進んだ。

④ 内段取り時間が3時間から1時間まで短縮された。しかしトヨタトップは「これでもまだ頻繁な型交換をしていたら生産ができなくなってしまう。頻繁な型交換 を行ない組立工程の平準化引き取りに在庫ゼロで対応するにはどうしても内段取り10分以内が必要だ」と考え、それを目標に掲げた。

⑤ トヨタマンにとってはめちゃくちゃな目標だったが、彼らが立派なのは愚直にそれに取り組んだことだ。そこで「内段取りからさらに外段取りへ移行できるもの はないか」「内段取り時間のさらなる短縮はできないか」ということに注目して改善活動が続けられた。その結果、調整の廃止、ボルト締めから手動締め具の変 更等の種々の改善が行われ、遂に3分までの短縮が実現した。

2.型交換作業の具体的事例

【改善前】プレス機に対して型は1つの入口しかありませんでした。したがって製品の型打ちが終ってから型を取り出して、新しい型と交換していました。ですから3時間もかかってしまったのです。
【改善後】プレス機の型の入口を直列に2ヶ所にしました。次の型は事前に準備 しておいて前の型打ちが終ったら、同時にスライドして入れ替えます。新しい型はすぐに型打ちを開始します。使用後の型は、今型打ちしている次の型と交換さ れます。このようにして内段取りでの機械停止時間3分を達成しました。